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軽量級とはまた違う確かなロマン。
小原佳太のKO負けに階級の壁を思う。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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posted2016/09/15 11:30

軽量級とはまた違う確かなロマン。小原佳太のKO負けに階級の壁を思う。<Number Web> photograph by AFLO

スーパーライト級のリミットは63.503kg。この階級のパンチには、179cmの小原佳太がリングの外まではじき出されるほどの衝撃度がある。

「6-4くらいで勝てると思っています」

 王者のトロヤノフスキーは24勝21KOで、無敗レコードを誇る。しかし年齢は36歳で、映像を見る限りは、パンチこそあれ“無敵”をイメージさせるようなボクサーには見えなかった。モスクワに旅立つ空港で小原は「6-4くらいで勝てると思っていますが、アウェイなので五分五分」と涼しい顔で言ってのけたものだ。実際に試合が始まると、小原は初回終盤、右ストレートを決めて王者を一瞬グラつかせた。24年ぶりの快挙がグッと近づいたかに感じた瞬間だった。

 しかしチャンピオンはこれで危機感を深め、守りに入るのではなく、攻撃姿勢を強めた。東洋大で小原の1学年先輩にあたる村田諒太(帝拳)は「やっぱり身内が負けるのを見るのは嫌ですね」と前置きしてから次のように語った。

「あの右でチャンピオンが後ろにいってくれたら小原の勝ちだと思いました。でもチャンピオンは前に出た。あれが負けたことのない人間の強さなのかなと。いいパンチをもらって怖いと思ったら、負けたことのある人間はおそらく下がってしまいますから」

右アッパーでリングの下まで転落させられた。

 前に出たチャンピオンは、ロングレンジから右フックをチャレンジャーのテンプルに叩き込んだ。小原の体がフラリと揺れ、トロヤノフスキーがすかさずラッシュをかけると、もはや小原は己の肉体を制御することができない。ロープに座るような形になった小原にトロヤノフスキーが右アッパーを決めると、小原はリングの下まで転落してしまった(ダウン)。

 このあと落ち着いて階段からリングに戻ったが、続く王者の猛攻でTKOとなった。

 敗因を分析するのは難しい。一瞬のスキを突かれたとも言えるし、海外での試合経験、トップクラスとの実戦経験が足りなかった結果と見ることもできる。小原はスーパーライト級ではかなり大柄な部類に入る。綿密な計画に基づいて体重を落としたが、IBF独自の10ポンドルール(当日朝に計量し、リミットの10ポンド増以上だと失格)は初の経験だった。厳しい減量がコンディションに影響を与えた可能性も否定できない。

【次ページ】 「スーパーライト級で世界なんて無理」なのか。

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