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実力者、生え抜きを次々と放出――。
バレンシア、再建どころか崩壊危機。 

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工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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photograph byGetty Images

posted2016/09/02 11:00

実力者、生え抜きを次々と放出――。バレンシア、再建どころか崩壊危機。<Number Web> photograph by Getty Images

昨季、一昨季とリーガで2ケタ得点をマークしたパコの離脱はクラブにとって大きすぎるダメージとなる。

権力争い、度重なる監督交代、そして選手大量放出。

 だが昨年7月、スポーツディレクターのフランシスコ・ルフェテがサルボ、テクニカルセクレタリーのロベルト・アジャラらを伴い辞任したのをきっかけに、バレンシアは崩壊の道のりを歩みはじめた。

 まずオーナーの庇護を武器にチーム強化の全権掌握を試み、ルフェテらを追い出したヌーノ・エスピリト・サント監督がファンに吊るし上げられた。その後リムは友人のギャリー・ネビルを後任に抜擢するも、監督未経験の英国人は前任者へのノスタルジーを感じさせるほどチームを低迷に追い込んだ末、4カ月でクラブを追われた。

 その後就任したパコ・アジェスタランの下でチームは復調の兆しを見せ、空席だったスポーツディレクターにも経験豊富なスソが就任していた。結局CLはグループリーグ敗退、リーガは12位に沈む失意の1年となったものの、少なくとも翌シーズンへの希望は見出してオフを迎えることはできたはずだった。

 だが2年前にサルボが発した言葉とは裏腹に、今夏もバレンシアは選手を売り続けている。それも、チームを崩壊に導く勢いで。

ナニ以外の補強はレンタル、移籍金ゼロの選手のみ。

 ソフィアン・フェグーリのウェストハム移籍を皮切りに、アンドレ・ゴメスはバルセロナ、ネグレドとアントニオ・バラガンはミドルスブラ、フエゴとパブロ・ピアッティはエスパニョールへと去っていった。

 そして8月末には唯一のまともなセンターバックであるムスタフィが4100万ユーロもの移籍金を残し、アーセナルと契約。これだけ多くの選手を手放した末、リムはパコのバルサ移籍を快く受け入れたのである。

 彼らのうち移籍金がはっきりしているだけでも、クラブの口座には1億ユーロを軽く超える額が振り込まれる計算だ。さらには去った選手の年俸も浮いているので、その総額はリムが過去2シーズンで費やした補強資金の大半を取り戻すほどとなる。

 にもかかわらず、締め切り時点で大物補強と言えるのは移籍金850万ユーロでナニを連れてきたくらいで、他はレンタルや移籍金ゼロの選手を数人獲ったのみ。それでも人件費の総額は制限ぎりぎりで、新加入選手を登録する余裕がないなんて問題が開幕前には論じられていた。

【次ページ】 主力選手がクラブへの愛着を続々と失う状況に。

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