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「大好きなゴルフが嫌いになりそう」
岩田寛を救った“仲間”松山英樹。 

text by

桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byYoichi Katsuragawa

posted2016/08/28 07:00

「大好きなゴルフが嫌いになりそう」岩田寛を救った“仲間”松山英樹。<Number Web> photograph by Yoichi Katsuragawa

プロという立場でも、楽しんでプレーする。松山と岩田の表情からはゴルファーとしての原点を感じさせる。

松山と回った練習ラウンドで、底抜けに明るかった。

 逆転でのシード獲得を逃した最終戦。開幕2日前の練習ラウンドを松山英樹と行った彼は、底抜けに明るかった。普段の重苦しい雰囲気とは違う。ふたりはコースをチェックする傍ら、18ホールのマッチプレーを繰り広げた。序盤でリードを奪った岩田は、ロングパットを沈めてパターを天に突き上げて喜び、ミスをすれば太ももを手の平でバチンと叩き、本気で悔しがって、周囲を笑わせた。

 最終的には2ダウンで逆転負けを喫し、その日の夕食代を持つ羽目になったのだが、松山のコース攻略への何気ない「このピン位置はヤバいんですよ。みんなグリーンを出ちゃったりして、3パットとか4パットもあったりして……」なんていう言葉も、岩田にとっては新鮮で、貴重だった。

 ラウンド後のドライビングレンジでも、珍しい光景が広がっていた。隣同士の打席で行っていたショット練習が終盤に差し掛かった頃、松山がおもむろに岩田の前に仁王立ちして、先輩のスイングをチェックし、感じたことを素直に口にしている。

 プロゴルファー同士の会話を終え、「ありがとう」と、なにかヒントを得たように白い歯を見せた岩田の姿を見て、松山も満面の笑みを浮かべていた。

 こんな様子を目にすれば、岩田もやはり心の底から「ゴルフが大好き」と吐き出せる人間であると心底感じられる。そして、こんな時間がもっとあったなら、こんな風に苦しみを和らげてくれる瞬間がもうわずかでもあったら…という思いが頭をよぎった。

気心の知れた仲間は、異国の地で大きな意味を持つ。

 同じPGAツアーのメンバーでありながら、ふたりが一緒に練習ラウンドを行ったのは、実はこれが約2カ月ぶりだった。

 今シーズンはリオデジャネイロ五輪開催による過密日程の影響もあって、松山の出場試合はほとんどがビッグゲームとなり、出場権の優先順位に劣る岩田と同じ試合に出たのはわずか8回。石川遼も2月に故障で離脱し、岩田は唯一の日本人選手としてゲームに臨むことが開幕当初の予想よりもずっと多かった。

 本人は「でも、僕と同じ状況で活躍している人もいるから」というが、満足に英語を操れるわけでもなく、初年度に訪れる場所はほとんどが初めての土地ばかり。多くの日本人選手が、米国人を中心とする大多数の選手たちとは違う難しさがあることは自明だ。気心の知れた仲間の存在は、異国の地であれば、格段に大きな意味を持つ。

【次ページ】 もう一度、チャンスをつかんだ時には分かるはず。

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