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「木内野球」の印象を塗り替えた夏。
常総学院・佐々木監督の色を見た。 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2016/08/18 15:30

「木内野球」の印象を塗り替えた夏。常総学院・佐々木監督の色を見た。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

木内幸男の取手ニ高時代の教え子である佐々木力監督。戦術を大切にする常総の文化は受け継がれている。

木内前監督との違いは、選手起用の我慢強さ?

 選手も覚えるのに必死だ。2番手投手の倉田希は「2カ月ぐらいかかった」と笑う。

「Bチーム(1年生と控え選手で構成されるチーム)で遠征試合に行くときは、バスで3人ぐらい、全部のサインを言わされるんです。そこで間違えたら、試合には出してもらえない」

 ただ、そうして複雑なサインのもとプレーしているにもかかわらず、選手の動きには不思議なほどやらされている感じはない。佐々木監督は、こう想像する。

「打たせてやりたいけど、ここはチームプレーに徹してくれという私の気持ちをわかってくれているんだと思いますよ」

 履正社戦で、追い込まれてからスクイズを決めた石川大は「スクイズをさせてくれ」という気持ちで打席に入ったという。

「僕は1ストライクをとられた後に(スクイズを)出して欲しかった。でも、抑えられっぱなしなのも悔しいですからね。打てのサインだったので、トライしてみろということなのかと思いましたね」

 石川は次のストレートをファウルし、そのあとスクイズを決めた。

 常総学院といえば、木内幸男前監督の印象が強い。部長の松林は、その教え子でもある佐々木監督の指揮官としての違いをこう語る。

「佐々木監督は、ミスした選手でも我慢強く使いますね。そのぶん、選手との信頼関係も強いんだと思います」

今年の常総は「佐々木野球」を楽しませてくれた。

 佐々木監督は'11年8月の監督就任時、「私はつなぎですから」と遠慮気味に語っていた。しかし、あれから5年。夏の甲子園で2度の8強進出を果たした。秀岳館に敗れはしたものの、見事に「木内野球」を継承しつつ、そこに自分の味も加えている。「まだ、つなぎのつもりですか?」と問うと、こう欲を見せた。

「まだ、甲子園でベスト8までしかいってないですからね。ベスト8以上いったら、また、そういう気持ちになるかもしれませんね。それにしても、(優勝まで)あと3つは遠いね~」

 木内時代に比べると、サインは倍近く増えた。そのぶん緻密になったと言えばそうだが、そうと言えない面もある。部長の松林はこう指摘する。

「それだけ幼いということでもある。本当に選手が大人になれば、サインが出なくても自分たちで判断してできますからね」

 まだ課題もある。しかし、常総といえば「木内野球」が代名詞だったが、この夏は、「佐々木野球」を存分に楽しませてもらった。

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佐々木力
木内幸男
常総学院高校

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