左方向へのホームランは、すべて振り遅れだった!?

「僕の逆方向へのホームランは全部、振り遅れだから」

　こう言う松井さんは狙って、意図的に逆方向に強い打球を飛ばして本塁打を打てていたわけではなかった。ある程度、引っ張る意識の中でタイミングが遅れたボールがセンターから左のフェンスを越えた。それだけのパワーがあったということだが、その一方で、それはバットマン・松井秀喜の“重大な欠陥”でもあった。

　同じ右利きの左打者だった巨人・高橋由伸監督が現役時代に「僕が松井さんより唯一、優れている部分があるとすれば左方向への打球ですかね」と言っていたのを聞いたこともある。だからその“欠陥”は落合さんの指摘するように作られた左打者ゆえというわけだけではない。恐らく松井さんのバッターとしての不器用さだった、と想像するのだ。

　なぜこんな話を書いたのかというと、DeNAの筒香嘉智外野手の左方向への打球の進化に、ある意味、松井さんを超えるものを感じるからである。

筒香も、右投げ左打ちの“作られた左バッター”。

　筒香も松井さんと同じ右投げ左打ちの作られた左バッターである。その筒香が左方向に快打を放ったときに、必ず口にする言葉があるのだ。

「逆方向への打球は自分のバッティングの基本ですから」

　ブレークした一昨年から、一貫して口にしてきた決まり文句のようなものでもある。

　ただこの同じ基本の打球でも、2年間の時を経て、内容的には大きく進化しているところが見逃せないところなのだ。

　昨年、試合を決める好機に見事なレフト前タイムリーを放った筒香を見て、元ヤクルト監督の野村克也さんが「4番のバッティングではない」と断じていたことがあった。

　実は昨年までの筒香の左方向へのスイングは、鋭い振り抜きだが、飛ばそうとするのではなく、ある意味、当てて押し込むだけという風に見えるものが多かった。そのスイングにノムさんの言葉は発せられたわけである。

【次ページ】　昨季、左方向への本塁打が1本もなかった筒香。