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複数投手制は高校野球を変えるか?
過密日程にも、飼い殺し対策にも! 

text by

小関順二

小関順二Junji Koseki

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2016/06/27 11:00

複数投手制は高校野球を変えるか?過密日程にも、飼い殺し対策にも!<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

横浜高校の藤平尚真は185cmの体格から150km超のストレートを投げ下ろす本格派だ。

横浜高の2枚エースはドラフト上位指名候補。

 春の選抜大会で吉高壮(3年)が孤軍奮闘した兵庫の明石商には山崎伊織(3年)という本格派が頭角を現し、1人エースの重苦しさからチームを解放しつつある。170センチの吉高を上背で11センチ上回り、ストレートの球速は選抜後の兵庫大会3回戦、神港学園戦で148キロを計測するという速球派。近畿大会では出番がなかったが、兵庫大会では神港学園戦のリリーフを経て、準々決勝の市川、決勝の報徳学園戦を完封で退け、ドラフト候補に名乗りを挙げた。

 東の横綱、横浜高も左右の2枚エースを擁している。投げないときは1番センターでスタメンに名を連ねる左腕・石川達也(3年)と、西武が早々と上位候補として獲得に名乗りを挙げている右の本格派・藤平尚真(3年)。春の関東大会では2枚看板を自在に使い分けて準優勝を遂げている。全国的な強豪校が複数のエース級を揃えれば、それは戦術として他校の模範となってスタンダードになる。それが重要である。

スーパー中学生を有力校が飼い殺す現状。

 1人エースのリスク回避と並び、複数投手制の重要な点は、強豪の私立ほど多く抱える“元スーパー中学生”を無駄なく世に送り出せるか、という点にある。

 20年くらい前、ある監督が逸材を多く獲得する理由として「他校で活躍されるくらいなら自分のところで飼い殺したほうがいい」と冗談めかして話していたが、半分は本音だと思う。

 しかし、人材は資源と言い換えてもよく、その資源がわが国は潤沢ではない。限られた資源を有効に使うには、逸材を他校と分け合う「シェア」という発想と、投手については先発投手の複数制しか手段はないと私は思っている。

 大阪の強豪、履正社も今年は2枚看板で夏に臨む。横浜高の藤平とともにドラフト1位候補に挙がっている寺島成輝(3年)が主戦だが、左腕スリークォーターから最速143キロのストレートを投げる山口裕次郎も存在感を発揮し、今年は大阪桐蔭に初戦で敗れた昨年の雪辱を誓う。

 奈良の智弁学園は選抜大会ではエース・村上頌樹(3年)が全イニングを投げチームを初優勝に導いたが、春の近畿大会ではキレのいいストレートとスライダー、チェンジアップを投げ分ける松本大地(3年)が初戦で紀央館を3安打完封に抑え、“2枚看板”が出来上がった。

 春夏連覇の前に奈良大会を勝ち抜くためには天理、奈良大附などを倒さなければならず、さらに終盤の過密日程を乗り切るためには最低2人の先発を揃えることは絶対条件。夏を前にようやく連覇の土台が築かれたという印象である。

【次ページ】 関東では東海大甲府の2枚看板が安定感を発揮。

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