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チームの雰囲気を変える男の帰還。
高橋巨人は阿部慎之助を待っていた。

posted2016/06/03 16:30

 
チームの雰囲気を変える男の帰還。高橋巨人は阿部慎之助を待っていた。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

交流戦1日目のオリックス戦、阿部は復帰早々に2ラン本塁打を放った。

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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NIKKAN SPORTS

 たった一人でチームを変える力を持つ選手というのがいる。

 長い間、巨人の大黒柱としてチームを支えてきた阿部慎之助とはまさにそういう選手で、その影響力を強烈に印象付けたのは、2012年6月5日のソフトバンク戦でのある出来事だった。

 それまで東京ドームという地の利を生かして一発攻勢による空中戦を得意としていた巨人打線だったが、前年からいわゆる統一球が導入され、その影響からか貧打に喘いでスタートダッシュに失敗した。序盤は借金が先行して、交流戦を前にようやく勝率5割にこぎつける苦しい戦いが続いていた。

 そこで当時の原辰徳監督が打ち出したのが、徹底したスモールベースボールだった。

 交流戦を前にしたミーティング。指揮官は選手を前に「どんな選手にも送りバントをさせるし、そのつもりでグラウンドに立って欲しい」というチーム方針を宣言した。

 スモールベースボールへの転換が功を奏して、交流戦開幕のオリックス2連戦(当時は1カード2連戦でのホーム&アウェー方式)からソフトバンク、西武戦と3カード続けて2連勝。ロッテとの2戦目で負けるまで7連勝し、交流戦前から引分けをはさんで10連勝で貯金を一気に7まで伸ばした。

阿部のバントがチームの雰囲気を一気に変えた。

「ただ、あのときもまだ選手は半信半疑だったと思う。全員がチームのための自己犠牲を徹底しなければいけないんだと、本当に覚悟を決めたのはあの場面だった」

 こう指揮官が振り返ったのが6月5日のソフトバンク戦だった。この試合の4回無死一、二塁で原監督は阿部に送りバントをさせた。

 主砲にまで送りバントをさせた采配は、集中砲火を浴びることになる。ただ、阿部が送りバントを一発で決めたことで、チームのムードがガラッと変わったと原監督は振り返った。

「百の言葉より、慎之助があそこで一発でバントを決めたことが大きかった。あれでチーム全員が阿部さんでもああいう風にするんだから、と自己犠牲の精神が徹底された。チームが変わるきっかけになった」

 3年ぶりにリーグ優勝を果たし、日本シリーズでも日本ハムを破って日本一に輝いた後に、原監督はこう述懐している。

 阿部にあえて送りバントをさせることで、チームを変える力として利用したわけである。

 巨人における阿部の大きさを物語るエピソードであり、ここ数年の巨人で阿部とはそういう存在だということだった。

【次ページ】 チーム状態が下降する中で、巨人は阿部を待っていた。

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