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菊池涼介の守備を作る「脱力と無音」。
ヒーローは“飛んで”やってくる。 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2016/05/29 11:00

菊池涼介の守備を作る「脱力と無音」。ヒーローは“飛んで”やってくる。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

守備だけを見ていても飽きない菊池涼介はプロ球界でも異色の存在だ。

「ジーターになれる」男が、日本の新しい二塁手像を。

 中京学院大が所属していたのは、知名度の低い岐阜リーグ。素材を評価し、育成ドラフトでと考える球団もあった。だが、松本スカウトは「(元ヤンキースのデレク・)ジーターになれる」と強く推薦。ドラフト2位で広島に入団し、彗星のように広島のレギュラーに駆け上がり、日本を代表する二塁手となっていった。

 本職は遊撃だ。だが、昨年まで守備走塁コーチとして菊池を指導してきた石井琢朗打撃コーチは、二塁手にこだわった。

「キク(菊池)を遊撃にすると、三遊間の打球に追いついても打者走者をアウトにできないこともある。走者一塁から右前打が出れば、一気に一、三塁となる。今は左にいい打者が多い。二塁手にキクのような選手がいるのはとても大きい」

 その期待に応え、菊池は日本球界に新しい二塁手像を作り上げたと言ってもいいだろう。

黒田博樹も驚く、肩の強さと守備範囲の両立。

 日本だけでなく、世界で戦ってきた黒田博樹投手も、菊池の守備力には一目置いている。

「20年プレーしてきて、ああいう選手は見たことがない。メジャーでもトップクラス」

 菊池が「鳥肌が立つほど嬉しい」と喜ぶ賛辞は続く。「一番は肩の強さでしょう。それだけアウトにする確率が上がる。ただ肩が強い選手はいたけど、肩が強くてあれだけ守備範囲の広い選手は他にいない」

 日本人選手の俊敏性と米大リーガーの強靭性を兼ね備えたのが、菊池という選手なのだ。

 しかし、菊池の守備を「破天荒」という言葉だけで表現することはできない。驚愕プレーの陰には、基本がしっかりとある。武蔵工大二高時代は横手からのスナップスローを禁止され、基本に忠実にしっかりとトップを作って上から投げる形を植え付けられた。

 その基本の上に地肩の強さが加わることで、どんな体勢からでも強い球を投げられる。ダイビングキャッチからの送球だけではない。多くの併殺を奪ってきたのも、菊池の肩の強さがあるからだ。

【次ページ】 無茶な動きはあるけど、無理な動きはしていない。

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