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走っても、守っても、打っても天才。
日本ハム・淺間大基の高校伝説。 

text by

安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2016/05/27 10:30

走っても、守っても、打っても天才。日本ハム・淺間大基の高校伝説。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

19歳とは思えない落ち着きが大物感を漂わせる淺間大基。1年目から一軍で成績を残した天才の本格開花が楽しみだ。

7の力で振って、9の打球が飛んでいく。

 4月の終わり、一軍に昇格して守備固めで顔を出したり、時にスタメンで出場していた淺間大基。その試合前のバッティング練習をずっと見ていた。

 ティーバッティング。

 インパクトだけが「パチン!」と弾けるような、はっきりしたアクションを持ったスイング。サッとヘッドを振り出して、ミートの一瞬に全身の全力が一気に“小さく”爆発し、目の前のネットに打球が突き刺さる。

 フリーバッティング。

 やはり、インパクトでボールの頭を「パチン!」と叩くように振り抜くと、今のスイングでどうしてそんなに飛んでいくんだろう……という打球。

“7”の力で振って、“9”ぐらいの勢いの打球が外野の深い所までクイクイ伸びるライナーで飛んでいく。

「グイグイ」じゃない。彼の打球に、そんな力感はない。

「クイクイ」。

 グイグイがエンジン吹かした飛行機なら、クイクイは空気に浮力をもらいながら、たとえばグライダーの航跡か。

 高校時代もこんなだったなぁ……。

小倉コーチが呟いた「あいつ、何本打っても……」。

 思い出した場面がある。高校3年の春、取材でうかがった横浜高グラウンドでのバッティング練習だ。

 マシンの設定も140キロ台だったろうし、本職の投手も全力投球していた。

 腕利きぞろいの横浜高のバッターたちですら、バッティングゲージから前に飛んでいく打球は多くて3本に1本。ほとんどの選手がタイミングに苦しんでいる中で、淺間大基のスイングからは、4本に3本は痛快なライナーとなってボールがライトへ、センターへ、左中間へときれいな航跡を描いていた。

 タイミングのとり方はこうですよ。インパクトはこのポイントですよ。バットの芯はここなんですよ。

 見る者にそんなことを教えてくれているような“勉強になる”バッティング練習。その時も、全身の力を振り絞ったような渾身のフルスイングなんて、1本もなかった。

 あいつ、何本打っても汗ひとつかいてないんじゃないか……。

 当時の小倉清一郎コーチが、そんなことつぶやきながら、私の前を通っていったものだ。

【次ページ】 淺間の盗塁は、消えるように全てを盗む。

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