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野球の華、レーザービームが消える?
コリジョンルールが生む困惑の数々。 

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酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2016/05/19 10:30

野球の華、レーザービームが消える?コリジョンルールが生む困惑の数々。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

走路は空いているようにも見えるが、捕手・原口がベースをまたいでいたためコリジョンルールが適用された。明確な基準の設定が待たれる。

矢野コーチ「いまのルールは複雑すぎる」

 グラウンドは本来、純粋にベストプレーに執念を燃やす場なのに、新ルールの基準があいまいなままなら、選手は疑心暗鬼になり、自重して思い切ったプレーも消えてしまう。大和は確かに「考え直さないといけない」と言った。もし、あの場面で本塁送球をあきらめ、内野手への中継プレーを選ぶことになっていれば……。それこそ、野球が野球ではなくなる。

 阪神はすぐに日本野球機構(NPB)へ意見書を提出し、5月13日にDeNA戦を控えた横浜スタジアムでNPBからルール適用について説明を受けた。

 この問題を取材して感じるのは「コリジョンルール」だけが一人歩きして、違う方向に行ってしまっている印象だ。矢野燿大作戦兼バッテリーコーチは「いまは複雑すぎる。いろいろ(プレー面での制約が)ありすぎる。もっとシンプルに考えたらいい」と核心を突いていた。

審判団でも判断が分かれる微妙な事例だった。

 走者の走路を空け、本塁後方からタッチしていたように映った原口は「走路に立っていた」として、コリジョンルールが適用されてセーフに覆ったが、阪神が意見書を提出して抗議するのは理由があった。

 2月の沖縄・宜野座キャンプ時の紅白戦。本塁タッチプレーで、小宮山が本塁をまたいで捕球したとして、アウトからセーフに覆っていた。捕手の立ち位置について、球団が説明を求めると、審判団の見解は以下のようだった。

「基本は本塁の前に立つこと。後ろは走路の延長線でもあり、好ましくない」

 要するに、はっきりとダメとは伝えられていない。「好ましくない」とグレーゾーンの表現なら、どうとでも解釈できる。金本監督が「もめる気がする」と懸念するなど、火種になるのは目に見えていた。しかも、ジャッジする審判の「判断基準」が話をややこしくしている。友寄正人審判長は渋い表情でこう明かす。

「あの映像を共有して見ていますが『あれは、あのままアウトで良かったんじゃないの』という審判も確かにいます。それは包み隠さずに言います。全部が全部、同じとは言いません。ですから、判断なんです。なるべく、審判全員が同じ基準になるように、縮めてはいる。狭めてはいる。もっともっと、より狭めて一本に近い線にしていこうと思っています」

【次ページ】 クロスプレーの排除は野球の魅力を損なう。

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