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どこまでもどこまでも走りたい――。
野口みずき、14年間のマラソン人生。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

photograph byYohei Osada/AFLO SPORT

posted2016/04/23 10:40

どこまでもどこまでも走りたい――。野口みずき、14年間のマラソン人生。<Number Web> photograph by Yohei Osada/AFLO SPORT

往年の力強い走りこそ影を潜めたが……最後まで走り切った名古屋ウィメンズマラソンは、23位でのゴールとなった。

150cmの野口が、走ると大きく見えた理由。

 その大阪国際女子を欠場し、その2カ月後、復帰戦となった名古屋ウィメンズマラソンでは6位となった。

 このレースでは、ゴールのおおよそ50mほど前だったろうか、すでに涙を流していた。その理由の1つが、走りきれた喜びだった。だから「ここからがスタートです」と力強く語りもした。どこまでも走り続けたいという意思表明だった。

 野口は、150cmと小柄ながら、走っているときは、そう感じさせなかった選手である。

 地面を強く蹴って、ストライド、つまり歩幅を大きくとるストライド走法を採っていたからだ。ストライド走法の中でも、ダイナミックなフォームゆえに、身体が大きく見えたのだ。

徹底的なトレーニングが可能としたストライド走法。

 ストライド走法は、日本のマラソン界では、非主流と言ってよかった。

 多くの選手は歩幅を小さくし、その分足の回転の速度で推進するピッチ走法を用いている。海外の選手に比べ、小柄で足が短い日本選手向きと考えられているからだ。

 当初、野口はハーフマラソンで好成績をおさめ、台頭した。その頃、マラソンは難しいのではないかと見る向きもあった。ストライド走法はスピードを出しやすい特徴はあるが、ピッチ走法と反対に、強い筋力を必要とする。

 また、足にかかる負担が大きく、後半のスタミナが持たないと思われていた。ましてや小柄な野口だから、なおさらそう見られていた。

 だが、野口は、徹底した筋力トレーニングと豊富な走り込みで、そんな見方を吹き飛ばした。ストライド走法が日本人にも有効であることを示した選手でもあった。

 実現できたのは、「徹底した」「豊富な」でおさまりきらない練習量があったからだ。

 それは諸刃の剣ではあったかもしれない。

 身体、特に足への負担の大きさが故障につながった可能性は否めない。

 でも、「とことん、走りたい」には、より速く、自分らしく、も含まれていただろう。「フォームを変えたら、自分ではない」という思いもあった。だから最後まで、自分らしい走りを貫いた。

【次ページ】 「生まれ変わってもやっぱり走りたいです」

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