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ネビルの悪夢から醒めたバレンシア。
新米監督と歩んだ4カ月の転落人生。 

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工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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posted2016/04/14 10:40

ネビルの悪夢から醒めたバレンシア。新米監督と歩んだ4カ月の転落人生。<Number Web> photograph by AFLO

背後の文字はウサイン・ボルトの「不可能なことなど存在しない」という言葉。なんとも皮肉である。

メディアの追及を巧みに前向きにかわし続けた。

 その後リーガでは初勝利を挙げるまでに何と10試合を要し、コパ・デル・レイではバルサに歴史的大敗(0-7)。これ以上悪化させようがない驚異の成績を出し続ける傍ら、会見では「辞める気はないのか?」、「これだけ勝てないのに辞めるべきだとは思わないのか?」、「チームのため、クラブのために自分が辞めた方が良いと考えることはないのか?」といった記者たちの懇願に近い質問を巧みにかわし続けた。「なぜそんなにポジティブでいられるのか?」と問われるほど、あくまでも前向きな姿勢を貫きながら。

 だがアスレティック・ビルバオとの同国対決に敗れて今季最後の希望だったヨーロッパリーグでの敗退が決まると、唯一にして最大の味方だったリム氏もとうとう苦渋の決断を下した。

「ガリー、ベテ、ヤ!(ギャリー出て行け)」のコールがこだました第30節セルタ戦でリーグ3連敗目を喫した後、熱心なファンに「ここはお前の居場所じゃない。頼むからイギリスに帰ってくれ」と見送られ、イングランド代表に合流したのはリーグの中断期間中のこと。リム氏ははるばるシンガポールまで相談にやって来たレイフーン・チャン会長とヘスス・ガルシア・ピタルチSDに現状を確認した上で、友人ギャリーの解任を言い渡したのである。

8位のチームを13位に落とし、退任。

 国王杯は準決勝まで勝ち進むも、バルサに大敗。ELはベスト16止まりで、リーガは16戦戦って3勝5分8敗。就任時点で4位と勝ち点5差の8位につけていたチームは、この16試合を経て降格圏と勝ち点6差の13位まで順位を落とした。

「バレンシアCF、ファン、スタッフ、クラブ職員、選手たちに感謝したい。この仕事を続けたかったが、この職業が結果に基づいていることは理解している。指揮下28試合で自分やクラブが求めるレベルの結果を出すことができなかった」

 この4カ月で眉間のしわをいっそう深くした新米監督は、クラブのHPに以上の短い挨拶文を残し、母国へと帰っていった(ちなみに弟のフィルは現在もコーチとしてトップチームに残っているが、新監督の下では実質的に役割を失っている)。

【次ページ】 後任は地味ながら、遥かに「妥当」な監督。

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