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超高校級が少ない今年の選抜がなぜ。
「接戦と全力プレー」で観客6万人増? 

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小関順二

小関順二Junji Koseki

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2016/04/04 12:00

超高校級が少ない今年の選抜がなぜ。「接戦と全力プレー」で観客6万人増?<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

春夏通じて初優勝の智弁学園。日々の練習から「日本一」を掲げてきた努力が実を結んだ。

継投で勝利を得たチームが昨年より激増。

 ただ、プロが注目するような選手が少なかった分、投手はストレートと変化球で緩急を操って打者を翻弄し、守備陣はしっかり守り、打者は全力疾走を怠らないという、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)などの国際大会で侍ジャパンが実践している野球を多くの学校が見せてくれた。

 さらに投手陣で顕著だったのは、継投策が実を結んだ試合が多かったことだ。昨年の選抜では、登板したピッチャーの数が多いほうの勝敗は1勝14敗と散々だったが、今大会は7勝11敗と健闘している。1人の投手の酷使を避けるという思想が徐々に浸透し、複数の好投手を用意する学校が増えたことがこれらの数字からよくわかる。

 満塁のピンチをアンダーハンドの谷村拓哉(3年)のリリーフで脱した鹿児島実をはじめ、最速144kmを誇る本格派、有村大誠(3年)を抑え役に起用して4強に進出した秀岳館、準優勝した高松商には先発の浦大輝(3年)を上回る速球派の美濃晃成(3年)が待機し、滋賀学園、海星も複数の投手を擁してベスト8まで勝ち上がった。この流れは今後も続いていくだろう。

ブロックの禁止で、二塁からのホーム突入が激増。

 攻撃陣では「コリジョンルール」が大きく野球の質を変えた。ルールの内容は「ホーム生還のとき走者が捕手に体当たりすることを禁止し」、「捕手はホームベースを塞いで走者をブロックすることを禁止する」などで、昨年までは捕手のブロックを恐れ二塁走者がワンヒットで生還するケースが少なく、1死二塁でもバントで三塁に送るケースがあった。

 それが今大会は三塁ベースコーチャーが腕をぶんぶん回して本塁突入を指示し、走者も最初から行く気満々で三塁ベースを蹴ってホームに飛び込んできた。こんな激しい高校野球を見るのは初めてで、二塁に走者がいるときは次の場面を想像して胸がわくわくした。野球の質が変わったことを残念がるネガティブな論調が目立つが、ワンヒットで二塁走者が生還するアグレッシブな野球のほうが、私ははるかに好きだ。

 前で紹介した打者走者の全力疾走でも、今年は昨年を上回った。

 全力疾走の基準タイム「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達11秒未満」を1試合で4人以上が記録した学校は、私の計測によれば昨年が延べ8校だったのに対し、今年は13校と激増。突出した選手がいなくとも、全力プレーで対抗するという高校野球の理想が垣間見えた。観客が昨年より6万人以上増えた要因の1つと言ってもいいだろう。

【次ページ】 サヨナラ6試合は過去最多、1点差試合も多かった。

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