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電話セールスがMLSを成長させた?
チケットの売り方を教える養成所も。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byKunihiko Watanabe

posted2016/03/28 10:30

電話セールスがMLSを成長させた?チケットの売り方を教える養成所も。<Number Web> photograph by Kunihiko Watanabe

右から3人目が渡邉邦彦さん。野球の独立リーグやJ2の徳島ヴォルティスのスタッフなどを務め、MLSのインターンを経験した。

電話対応の6つのステップと「拒否への対応」。

 渡邉は興味を持ち、自らアポイントを取ってNSCに足を運んだ。

「NSCはミネソタ・ユナイテッド(2部)があるスポーツセンターに併設されており、研修生は授業の一環として、実際にMLSの各クラブのチケットを電話セールスするんです。たとえば相手がイエス・ノーで答えられる質問は厳禁。とにかく電話で相手に飽きさせずに長く話して、最後にチケットを買ってもらう。指導官がアドバイスしながら実地で鍛えるんです」

 NSCは電話セールスにおいて、6つのステップを定義している。「共感を得る」、「議題設定」(電話した理由の説明)、「イエス・ノーで答えられない質問」、「商品の紹介」、「拒否への対応」、「購入の提案」だ。壁には「(担当クラブが)王者のようにチケットを売ろう」というスローガンが掲げられている。

 この中でポイントとなるのは、やはり「拒否への対応」だろう。断ろうとする相手にいかに商品の魅力を伝えるか。アドリブ力を磨くために、NSCでは即興演劇のコメディの授業を取り入れている。地元で人気の劇場「ブレイブ・ニュー・ワークショップ」の協力を得て、研修生がコメディの練習をするのだ。

 そこでは「Yes,but……」ではなく「Yes,and……」で答えることがルールになっている。「おっしゃる通りです、でも……」と答えると、相手はネガティブな印象を抱く。そうではなく「おっしゃる通りです、さらに言えば…」という感じで、自然な形で主張を伝える。

NSCの研修生なら、クラブも確信を持って採用する。

 研修生の電話セールスはすべて録音され、のちに教官によってどこがいけなかったかを指摘される。研修生のなかで売上ランキングが作られ、プレッシャーとの向き合い方も学んでいく。

「アメリカでも面接だけは得意な人がいて、なかなか適性を見抜けない。特にセールスは大変な仕事なので、辞めてしまう人も多い。一方、NSCをクリアした研修生なら鍛えられており、クラブも確信を持って採用できる。すごく重要な役割を担っていると思います」

 渡邉はMLSでのインターンを終え、今年3月に帰国した。ひとまずスポーツビジネスからは離れ、実家が経営する会社(株式会社コーチョー)の海外進出に取り組む予定だ。

「自分の中ではこれから始める仕事は、これまでのスポーツビジネスとつながっている。将来的にクラブの経営に携わりたいと考えています」

 独立リーグから始まり、Jリーグ、マイナーリーグ、MLSを渡り歩いた経験は、いつか再び日本スポーツの舞台で生かされる日が来るに違いない。

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渡邉邦彦

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