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ダカールラリーで部門3連覇達成した、
ハンドボール出身監督の決断。 

text by

大串信

大串信Makoto Ogushi

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photograph byTOYOTA AUTO BODY

posted2016/03/24 18:00

ダカールラリーで部門3連覇達成した、ハンドボール出身監督の決断。<Number Web> photograph by TOYOTA AUTO BODY

左から、ナビゲーターのリシトロイシター、角谷監督、ドライバーの三浦。3連覇の偉業を最後まで支えきった、喝采を浴びるべき大活躍だった。

トヨタ車体のサラリーマンがラリードライバーに!?

 342号車を走らせていた三浦も必死だった。もともと社員ナビゲーターとしてダカールラリーに関わるようになった三浦は、今年初めてドライバーとしてダカールラリーに出走した。小学生の頃にアイルトン・セナがF1で活躍するのを見て憧れていたとはいえ、実際に自分が世界の舞台で競技車両のステアリングを操ることになるとは思っていなかった。

 昨年のレース後、トヨタ車体の創立70周年を記念したチャレンジとして、ダカールラリーに自分が社員ドライバーとして出走したいとダメもとで提案。受け入れられ、ドライバーになったものの、ナビゲーターとしてプロドライバーの走りを間近に見てきた三浦にはその難しさがわかりきっていた。

「とんでもない悪路ですから、我々の前を走るトラックでできた大きな轍にそのまま入ると、市販車ベースのランドクルーザーはタイヤが接地しなくてスタックしてしまいます。だからプロドライバーは、タイヤ幅半分ずらして轍の側面にタイヤをひっかけて、百何十kmのスピードを維持してジャンプしながら走って行くんです。そんなこと自分にできるのかと」

砂丘頂上の向こう側が見えないまま、アクセルを踏む!

 志願して採用されたのだから、怖じ気づいているヒマはない。三浦は社内のテストドライバーや社外のオフロード競技関係者をつかまえて、自動車はどういう原理で走り、曲がり、止まるのかを基礎から学び、自分がダカールラリーで求められる走り方を組み立てていった。

 もちろん理屈だけでプロの走りが身につくわけもない。実際のコースを走って、三浦は自分のテクニックを磨いた。最大の課題は砂丘であった。

「砂丘は怖いんです。砂丘のピークに向かうとき、運転席からは頂上の向こう側が何も見えない状態でアクセルを踏まなければなりません。もし(怖くて)ピークの手前でブレーキをかけてしまうと、その先で砂に埋まってしまいます。だから前輪がピークを出て浮くまではアクセルを踏み、そこでアクセルをオフにして前輪が着地した瞬間にブレーキで少し押さえる、というテクニックが必要になる。

 また、地形を読む必要もあります。先が見えないピークへ向かって行かなければならないので怖いんです。

 でも、昨年までぼくがナビゲーターを務めていたドライバーがアドバイスをくれました。『オマエ、ナビゲーションやっているときはあそこを走れ、ここを走れとオレに指示していたじゃないか。その通りに走ったオレが砂に埋まらなかったんだから、オマエ自身はどうやって走ればいいのか本当はわかっているはずだ。今のオマエには余裕がなくて見えていないだけなんだ』と。

 ああ、なるほど、自分がナビゲーションをしている気持ちで走ればいいのかと、何か感覚がつかめてきて、まだまだ完成にはほど遠いですけど恐怖感はなくなってきました」

【次ページ】 当初はゆっくり走れと言ってたのだが……。

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