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サッカー界に一石を投じるプロ入り。
室屋成、そして明治大学の英断。 

text by

安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2016/02/25 10:40

サッカー界に一石を投じるプロ入り。室屋成、そして明治大学の英断。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

五輪最終予選は6試合中5試合で先発。サイドバックとして存在感を発揮し、イラン戦では値千金のアシストを決めた。

プロレベルの選手に訪れる4年生の悩み。

 しかし、大学4年になると、プロに行くだけの力がある選手は、大学サッカーの世界では突出した存在になる。自分のレベルが周りよりも上になってしまうと、そこはもはや自分を磨いてくれる環境ではなくなってしまう。その中でも成長する選手はいるが、4年になった途端にトーンダウンをしてしまう選手がいるのも事実。そういう選手を見る度に、「大学3年が終わった時点でプロに行けば、もっと成長していたかもしれない」という想いを抱いてしまう。

 ただ、誤解して欲しくないのは、そういう選手はほんの一握りだということ。逆にほんの一握りだからこそ、余計に目についてしまうのも事実だ。今回の室屋は間違いなくその候補となりうる一握りの選手だった。

 青森山田高校時代は、実力はあるものの、プロに行く自信は生まれなかった。しかし、明治大で1年時からレギュラーとしてスタメンを張り、レベルの高い中で試合に出続けたことで、大きな自信を掴んで着実に成長を遂げた。そして大学3年になると、ユニバーシアードを経験し、U-22、U-23日本代表の活動を通じて、さらに伸びた。

室屋「プレッシャーの中でサッカーをしたい」

「大学の3年間で1対1や、個人戦術を学ぶことができた。でも、僕の中でリオ五輪に出ること、その先のA代表に入ることを考えると、もっと上のレベルでやりたいと思った。カタールでは、僕以外周りが全員プロだったのと、(五輪の)連続出場が懸かっている緊張感、プレッシャーの中で過ごす時間が、自分にとって凄く良い経験になった。プレッシャーの中でサッカーをしたい、そうすれば自分はもっと成長すると感じ、Jリーグでプレーしたい気持ちが一気に強くなった」(室屋)

 彼がプロのステージに行くのは、まさしく「このタイミング」だった。これまでも、長友、武藤はA代表に定着し、イタリア、ドイツと世界に羽ばたいている。伊野波、林もA代表に入り、伊野波はW杯も経験している。

 明治大のこの「英断」は、彼の将来を大きく切り開いたと言っていい。今後、こういう円満解決のケースが、もっと出てきて欲しいと思う。ただ、このケースが大きな危険性をはらんでいるのも事実。大学側の立場としても、力のある選手が次々と在学中にプロ入りを希望してしまっては、経営や高校との関係などにおいて混乱をきたす場合がある。「室屋ケース」は、「本当に力を有している者」に限られ、同時にその人間性も求めないといけない。今回、明治大が英断を下した1つの理由として、彼の非常に優れた人間性も大きな要素だったのだ。

【次ページ】 ピッチの内外で、やることをやる。

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