プロ野球PRESSBACK NUMBER
「嫌われてもいいけど、頼られたい」
阪神・金本監督、有言実行の“超変革”。
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNanae Suzuki
posted2016/01/29 10:30
若いと思われる金本新監督だが、実はセ・リーグ最年長でもある。サラリーマンなら中間管理職にあたる40代監督らの熱い戦いに注目したい。
数年後を見据え、横一線の競争を仕掛けた。
開幕に向けて周囲の期待は高まる一方だが、金本監督自身が抱く危機感は相当なものだ。
どのチームのフロントも監督が代われば長期計画でのチーム強化を思い描く。阪神も「ぶっ壊して立て直す」ビジョンを掲げるが、勝利追求と若手育成を並行する難しさを思えばこそ、軽々しく「期待してください」と言わない。
「今年は勝てないと言っているけど来年、再来年はもっと苦しくなる。来年、鳥谷は36歳、能見は38歳、メッセンジャーも36歳……。主力がどんどん年を取っていくんだから」
主力は高齢化し、新顔の出現が急務になっている。
長年、阪神は若手の伸び悩みが懸案だった。積極的な補強で若手の出場機会が奪われたのも一因だ。今年は違う。金本監督はこれまでの補強方針にメスを入れ、競争を仕掛けた。昨年11月の高知・安芸秋季キャンプでは伊藤隼太や江越大賀ら外野手を集めて言う。
「FAの選手は断ったから。このなかからレギュラーをとれ」
公言したからには筋を通す。当初はFA野手の獲得を検討したが、ドラフト結果を含めて判断し、見送った。手駒が必要な投手を重点的に補強する一方で、野手は新人以外では、外国人のマット・ヘイグただ1人だった。
「嫌われてもいいけど、頼られたい」
外野の定位置は不動の右翼・福留孝介を除いて2枠、空いている。2月の一軍キャンプには横田慎太郎、緒方凌介ら新鮮な顔ぶれも抜てきした。千載一遇のチャンスを得た若手は、同時に言い訳できない土俵際に追い込まれた。ここで実力を示せなければレギュラー失格の烙印を押される選手もいるだろう。偽りなき競争をうながす指揮官の配慮には、とてつもない厳しさも込められている。明快なメッセージは容赦なき世界を制した鉄人の真骨頂だろう。
金本監督はリーダー像について、こう話す。
「嫌われてもいいけど、頼られたい。嫌ってもらっていい。選手の時も嫌われてもいいと思ってやっていた」
建前ではなく、本音に生きてきた。揺るぎなき信念を抱いて、骨太の超変革に挑む。懐の深いリーダーとともにいざ戦いへ。間もなく春季キャンプが始まる。