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チェルシーがモウリーニョを解任。
アザールの心が折れた“ムチ”過剰。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2015/12/18 13:00

チェルシーがモウリーニョを解任。アザールの心が折れた“ムチ”過剰。<Number Web> photograph by AFLO

2度目のモウリーニョ政権は、1度目の成功を取り戻すには及ばなかった。

主力は、指揮官のムチに応える気力を失ってしまった。

 そのラストゲームで、アザールは前半30分までしかピッチにいなかった。モウリーニョ曰く、「10秒もかからずに無理だと自分で判断した」という負傷退場。これも酷な言葉のムチだった。たしかに、タッチライン沿いでモウリーニョと言葉を交わしたアザールは一瞬、続行を試みようとしたが、そのボディランゲージは「交代したくない」という意気込みが伝わってくるものではなかった。

 指揮官にすれば、必勝の覚悟で臨んだ戦場に留まる気概を見せなかったことが信じられなかったに違いない。だがアザールをはじめとするチェルシーの主力は、そうした指揮官のムチに応え続けるだけの気力を失ってしまっていたようだ。

 とはいえ、このタイミングでのモウリーニョ解任が妥当だったとまでは言い難い。2年前の再就任時には「長期展望」が指揮官と経営陣に共通のキーワードだった。そして、モウリーニョがクラブ史上最高にして現役最高水準の監督であることも周知の事実だ。

後任が誰であってもこのダメージは……。

 噂の新監督にはジョゼップ・グアルディオラとディエゴ・シメオネの名前が挙っているが、いずれも今季中の招聘は不可能で暫定監督を迎えて来季につなぐしかない。

 オーナーと懇意でファンにも人気のフース・ヒディンクが、リーグ3位とFAカップ優勝を実現した7年前に続く暫定指揮を承知する可能性はある。しかし、モウリーニョの下で「帝国」としての未来像まで描いておきながら、昨季の国内2冠で通算タイトル数が2つ増えた以外は、クラブの在り方もチームの戦い方も大して変わっていないという停滞感と失望感が僅かに和らぐ程度でしかない。さすがに残留争いの泥沼にはまるような戦力ではないだけに、トップ6を目指して今季を闘い抜き、補強を含めて来夏に再スタートを期すべきだった。

 しかし、それは理想の世界での話だ。堪え性のなさで知られるアブラモビッチだが、今回ばかりは監督交代の決断を「非情すぎる」と頭ごなしに非難することは難しい。モウリーニョはレスター戦後の控え室でもチームにムチを打ったのだという。主力に向かって夏に売り飛ばしているべきだったと言い放ったとされる。

 オーナーは、リーグ順位以上に自信の低下が目に余る今季のチームに対し、監督のムチ、それも“スペシャル”なはずのムチが効かなくなっている現実を見聞きしてきたのだ。モウリーニョだからこそ苦しむチームにムチが入り、モウリーニョらしくあり続けたからこそ繰り返されたムチの効力が薄れたという悲しい現実と共に。

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