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チェルシーがモウリーニョを解任。
アザールの心が折れた“ムチ”過剰。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2015/12/18 13:00

チェルシーがモウリーニョを解任。アザールの心が折れた“ムチ”過剰。<Number Web> photograph by AFLO

2度目のモウリーニョ政権は、1度目の成功を取り戻すには及ばなかった。

アザールとは師弟の絆を感じさせていたが……。

 その好例が、最も力を引き出す必要のあったエデン・アザールに対する手綱捌きだ。一部で報道されていたように、確執が生まれていたとまで言うつもりはない。アザールが指揮官に反旗を翻すようなタイプとは思えず、BBCラジオのインタビューで「監督との関係に問題はない」と言っていた本人の姿勢は、ピッチ上でも「全力」と表現できるものであり続けた。

 メディアでは、昨季プレミアで14ゴール9アシストの年間最優秀選手が、16節までに0ゴール2アシストという今季の数字が取沙汰された。だが、アザールの出来自体は、ウィリアンを除く全員が期待外れの今季攻撃陣では評価できるレベルにあった。14節トッテナム戦(0-0)でユーゴ・ロリスのスーパーセーブに阻まれたボレーをはじめ、多少の運があればネットは何度か揺れていたはずだ。

 個人的には、モウリーニョとの間に最も師弟の絆を感じさせる選手だとも思っていた。会見場で皮肉たっぷりのジョークを披露する指揮官と、ピッチ上でベンチからの指示にしかめっ面をしながらも要求に応えてみせるアザールには、どこかいたずらっ子的な共通点を感じていた。実際、モウリーニョ復帰1年目の一昨季に守備の意識不足を注意され続けたアザールは、今では指揮官から怒鳴られずともプレッシングに向かいつつ、チームを優勝に導く2列目の原動力へと成長していた。

 だからこそモウリーニョも、アザールならば叱咤に応えてくれると信じていたのではないだろうか? しかし、相手はまだ24歳の若者だ。自らスランプを認め、「敵のマークが厳しくなっているのかもしれないけど、チームでの責任を自覚して常にベストなパフォーマンスを心掛けなきゃならない」とまで言っていた当人にすれば、監督から批判ではなく励ましの言葉が欲しい気持ちはあっただろう。

10番に対する感覚も違う両者。

 加えて、「サッカー人」としての両者の間には感覚の違いもある。「自己表現できるナンバー10が最高。だから背番号も10番にこだわるんだ」と言うアザールに対し、「私にとってのナンバー10とは、マイボール時には“9.5番”で相手ボール時には“8.5番”」と言うモウリーニョは、ボックス内に顔を出しての得点と中盤に加勢しての守備という働きを創造性の源に求める監督だ。

 その差異にもかかわらず、モウリーニョは自らの感覚だけで愛のムチを打ち続けてしまった感がある。起き上がり小法師のようなリアクションを一方的に期待し、アザールを戒めることでチーム全体の奮起と覚醒を促そうとしているかのように思えた。

【次ページ】 メンバー落ちに加え、報道陣の前でも問題を公言。

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