捕った瞬間、親指が捻じ曲がった。

　5球目ぐらいから球道がブレ始める。構えた頭の高さ、構えたミットより外。なのに、棒球がない。やっと捕れるボール。

　ツーシームみたいな快速球が来た。構えた右ひざの位置で捕った瞬間、ミットの中で親指が捻じ曲がった。

　動く。

　このスピードで動かれたらたまらない。

　速い。やっと捕る。

　速い、やっと捕る。

　なんだ、この余裕のなさ。今日のボールにはなかなか慣れない。

「動かしてるだろ、純平……？」

　後ろで誰かが訊いた。

「全部動きますよ、いい時ほど」

　いい時に来てよかった。

落ち始めてからが速い、三振をとれるカーブ。

「カーブ、いいですか！」

　タテに来た。横に振れない本物の“ドロップ”だ。

　2つ目のカーブがミットを鳴らした。

　おお……。

　落ち始めてからが速い。空振りの三振をとれるカーブ。武田翔太のがこんなだった。

　ソフトバンクのエースに向かって進化中の、あの“とぼけたの”と同じカーブだ。

　30球のつもりが、こっちの親指がもたなくて25球にまけてもらう。

　速く、強く、しかも動く剛速球。間違いなく140キロ後半が続いて、中には150に届いていたのもいくつかはあったはず。見ていた人が驚いていた。

　よかったと思った。

　高校球界№1の剛腕が戻ってきた。

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