「夢に出て来て叱られるくらいの……」

「亡くなった今でも、夢に出て来て叱られるくらいの怖い存在でした。叱る時、相撲界は“コラッ！”と一発、拳固を食らって済むようなことが多かったなか、師匠は理論的に、理詰めで来るんですね。時に心の臓を撃ち抜かれるくらいの言葉で……。ちゃんこも喉を通らない状態になったこともありますよ。それは、私が横綱を張っていた時でも、変わりませんでした」

　そしてしみじみと、こう言葉を繋げていました。

「弟子を甘い言葉で褒めるようなことはない人でした。今、自分も師匠の立場になって、やっとわかりましたよ。弟子に対するねぎらいや褒める気持ちも、もちろん心の中にあるんです。きつい苦言の中にも、師匠自身はその気持ちを挟み込んで、表してはいるつもりなんですよね。でも、受け取る弟子の側が――相手が、汲み取れないだけなんですよ」

この相撲人気は放駒元理事長あってこそ。

　今、私は思うのです。

　放駒元理事長だったからこそ、相撲有史以来の未曾有の危機を乗り切れた。そしてこの再びの相撲人気は、放駒元理事長の存在があったからこそではないのか、と。

　なぜならば、放駒元理事長にこの手紙を書くにあたり、今更ながらに気づき、驚くことばかりだったのです。混乱の渦中にいたあの頃に、すでに現在の相撲ブームの礎となる「大きな布石」を打っていたのも、計らずも知ることになりました。そしてまた、意外な素顔をお持ちだったことも、このたび知り得た次第です。

　長くなりました。それについては、すぐさま第2信として10月21日にお送りするべく、ここはひとまず筆を擱かせて戴きます。

かしこ