マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
ドラフト1位指名濃厚の剛速球右腕。
熊原健人のストレートを受けてきた。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byMasae Takahashi
posted2015/10/16 10:30
大学入学時は66kgだった体重もいまや86kgまで増えた熊原健人。そのストレートは上位指名必至のパワーだ。
いいぞ。バカになれるヤツだ。
最初の10球で手のひらの感覚はもうない。
右打者のインコースに移る。ここから先は、左ヒジの力と気合いだけだ。
かすかなシュート回転。それが速い。受けたそのままじゃ持っていかれる。
捕球の瞬間、気持ち、ミットを立てる。その動きでボールのパワーを殺す。
それにしても、なんだ、このスピード。ミットにメリ込む“岩”の痛さ。そして、そのボールに込める意地の重さ。
投げ込めるヤツ。
今日はストレートだけ。最初から、そう決めていた。タテのスライダーもフォークも、スッと気合いを抜いてくるようなカーブも、変化球だって一級品。それはわかっている。
しかし、ここ一番の瀬戸際に立った時に選ぶボールはストレート。そう聞いていたし、そうあってほしいと思っていた。
渾身のストレートをあきずに何球投げ込めるのか。どこで変化球に“逃げ込もう”とするのか。それが見たかった。もちろん、本人には伝えていない。
どこでストレートにあきるのか。
両サイドに10球ずつ。さらに、内、外に散らして15球。わき目も振らずについてくる。求めたポイントにひたすら全力で腕を振ってくる。その懸命さ、その愚直さ、そのひたむきさ。
いいぞ。バカになれるヤツだ。
150キロ出ているんじゃないか。
「ラスト3球。全部アウトローな!」
「おっし……」
「オレが一生忘れないようなヤツ、放ってこい!」
両足を前後に交叉させた独特のセットポジション。ミットを見つめる時間がいつもより長い。
いい目だ。
左足が大きく上がって、そこからが速い。
よしっ! と思って、ミットが負ける。
150キロ出ているんじゃないか。