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試合前のメディアの心配もどこへやら。
ハリルJがシリア戦で見せた「柔軟性」。 

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戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2015/10/09 11:30

試合前のメディアの心配もどこへやら。ハリルJがシリア戦で見せた「柔軟性」。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

ハリルホジッチ体制で唯一全試合出場を続ける宇佐美貴史。この日のゴールで原口との先発争いはどうなるか……。

選手は、シリアの足が止まることを知っていた。

 前半終了間際には、シリアに冷たい汗をかかされた。相手の2トップをつかまえきれずに、至近距離から決定的なシュートを許している。

 この試合が日本のホームゲームだったら──ウズベキスタンのラフシャン・イルマトフ主審がハーフタイムの到来を告げた瞬間、スタジアムはブーイングに包まれていただろう。前半の内容は、それぐらいのレベルだった。

 だが、選手たちは冷静なのだ。

 シリアの運動量は最後まで持続しない、時間の経過とともに足が止まってくる、という認識を共有していたのである。

 55分の先制点は、1本の縦パスから生まれた。長谷部誠が自陣から前線へフィードすると、岡崎慎司がペナルティエリア内で相手CBのファウルを誘う。イルマトフ主審はわずかに逡巡したが、副審に確認をしてPKスポットを指差す。本田がきっちりとネットを揺らし、日本はリードを奪った。

 日本のストロングポイントは、ショートパスを活用したコンビネーションにある。連動性と距離感は重要なキーワードだが、そればかりでは攻撃が一本調子になってしまう。

 ハリルホジッチ監督のシステムは、フリーランニングが鋭い岡崎を1トップに配しているのだ。チャンスがあれば、1本のパスを狙ってもいい。狙うべきである。その意味で、長谷部の判断と岡崎の動き出しが連結したPK獲得の流れは、実効性に富んだものだった。

先制後も受けにまわらず、攻めの形を見せる。

 グループ首位を争うシリアとのアウェイゲームで、待ち望んだ先制点をつかんだ。ここで精神的に「受けにまわらなかった」のが、勝利を引き寄せた大きな要因である。シリアは足が止まってくるというチーム全体の共通認識が、輝きを放っていくのだ。

 カウンター狙いを視野に入れずに攻勢を強め、70分に右サイドで直接FKを獲得する。ゴール前には槙野智章と吉田麻也の両CBも待ち構えていたが、本田はペナルティエリア外の宇佐美貴史へつなぐ、交代出場したばかりの宇佐美も、ゴール前ではなく左サイドの一番外側にいる香川へパスを供給する。香川が独力でペナルティエリア内へ侵入すると、ゴールエリア内へ詰めた岡崎がラストパスをプッシュした。

 これまで消化した2次予選の3試合から、リスタートをきっかけとしたゴールを見つけることはできる。だが、ここまではっきりとした形でリスタートを得点に結びつけたのは、これが初めてだった。

【次ページ】 スタイルに固執しなかったのが何よりの成果。

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