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本田圭佑の経営批判はなぜ問題か。
契約社会における“絶対的タブー”。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2015/10/10 10:40

本田圭佑の経営批判はなぜ問題か。契約社会における“絶対的タブー”。<Number Web> photograph by AFLO

本田圭佑に対する処分をミランは検討中で、移籍の話も急浮上してきた。果たしてどんな結末が待ち受けているのか。

経営へ口出しするなら、社会的な反発も必至。

 '12年夏、FWカッサーノ(現サンプドリア)が、補強方針に異を唱えてミランを出て行ったときも、彼へ同調する向きはほとんど皆無だった。

 問題児カッサーノは、そもそもトラブルメーカーとして有名だったし、在籍中に発症した心臓疾患から命を救ったクラブに対する恩はないのか、とあらゆるサッカーファンが反感を抱いた。未完の天才のプレーをグラウンドで見る分には楽しいが、雇う立場やチームメイトたちからすると、和を乱す厄介者としか映らない。経営へ口出しするのなら、クラブ内部のみならず、社会的な反発も覚悟しなければならない。

 本田は自らの発言を「イタリア・メディアへ伝えてほしい」と言う前に、自らが属するクラブを相手にした場合の社会的影響について、考えを巡らせるべきだった。ただ、そういったことをケアするのは、本来代理人やサポートスタッフの仕事だ。

 本田のチームメイトである悪童FWバロテッリも、クラブオーナーのベルルスコーニの前では、借りてきた猫のように大人しい。圧倒的な実績と“俺様主義”で知られるFWイブラヒモビッチ(パリSG)ですら、ミラン在籍時にはクラブの経営へ不用意に口を挟むことはしなかった。仮に彼らが問題発言をしたとしても、欧州屈指の大物代理人ライオラが、クラブ上層部へ圧力をかけて迅速に火消しを図る。

 世界の頂点に長く君臨したミランは、言い換えれば海千山千のビジネス・マネージャーや代理人という名の魑魅魍魎が跋扈する棲家だ。ミランに限らず、レアル・マドリーであろうが、バイエルンであろうが、欧州の名門ビッグクラブとは多かれ少なかれそういう場所に他ならない。

本田の訴えの内容は、ファンも充分に理解している。

 本田が暗に訴えた“経営方式を改めよ”というミラン再建への考えは、ミラニスタたちも十分すぎるほど理解している。最後のスクデットの原動力だったFWイブラヒモビッチとDFチアゴ・シウバを売却した'12年夏以降、サンシーロの経営陣批判が止んだことはない。

 ミランの抜本的な組織改革は、ベルルスコーニが退くまで現実的に不可能だ。再建を阻む元凶が、ガッリアーニ副会長と名誉会長ベルルスコーニの老害2人にあることは、ミラニスタのみならずイタリア人なら誰もが熟知している。しかし、今回の報道に対する反響の中で、あるインテリスタが書き込んだ「本田の言っていることは、ゼロか100か、典型的な日本式思考法だ。極端すぎる」という指摘も事実なのだ。

【次ページ】 文化的摩擦を越えた先に、真の活躍がある。

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