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日本史上初の入賞可能性を持つ男。
十種競技の「キング」、右代啓祐。 

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小川勝

小川勝Masaru Ogawa

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photograph byAFLO

posted2015/08/22 10:10

日本史上初の入賞可能性を持つ男。十種競技の「キング」、右代啓祐。<Number Web> photograph by AFLO

10種類の競技の総合得点を競う十種競技では、全ての筋肉、全ての動きが必要になる。つまり右代啓祐は、「日本で一番運動神経がいい」男という事ができるだろう。

棒高跳の難しさを示すブブカの言葉。

 棒高跳でうまくいかなかった理由は、2大会とも同じだった。踏み切ったあと、ポールを十分に曲げることができず、バーに向かって上昇していく際の、足の振り上げ動作がうまくいかなかったのだ。

 この結果を受けて右代は、棒高跳に集中した練習をするため、オーストリアから帰国すると、ナショナルトレーニングセンターで体操競技の練習場を借りて、空中動作の改善に取り組んだ。

「僕は腕の力があるので、つい力でごまかしちゃう。腕の力で上がるのではなくて、下半身のスイングを使って、逆さまになる(倒立する)動作を、平行棒やつり輪で、徹底的にやりました」

 実際、棒高跳の世界記録保持者(屋外)であるセルゲイ・ブブカ(ウクライナ)も「棒高跳は、踏み切るまでは陸上競技だが、踏み切ったあとは体操競技」と語っている。

集中練習により、硬くより高く跳べるポールを習得。

 棒高跳の記録は、使用するポールの長さと硬度によってある程度決まってくる。短いポールでは高く跳べない。また同じ長さでも、硬度の高いポールのほうが、踏み切って曲がったあと、伸びていく時により勢いがつくため、高く跳べる傾向にある。

 6月の集中的な棒高跳強化によって、右代は昨年まで使用していたポールより、硬度の高いものを使いこなせるようになった。その成果は、7月4日、5日の日本選手権で見ることができた。

 4m60から跳び始めて、4m70、そして4m80も1回目でクリア。ポールを使いこなせていない時は、踏み切ったあと上昇しながら足でバーを落としてしまうことが多い。しかしこの大会ではそのような失敗はなく、ポールを十分に曲げてから上昇していくという、いい形のジャンプばかりだった。

 右代は196㎝、95㎏という巨体。棒高跳の選手にはこれほどの体格の選手はいないため、この体が宙を舞う右代の棒高跳は、迫力がある。

 日本選手権では1日目、100m11秒35、走幅跳7m01、砲丸投15m65(自己記録)、走高跳2m03、400m50秒52。

 2日目は110m障害15秒00、円盤投49m33、棒高跳4m80と、ここまでは8200点も狙えるペースだったが、73m82の自己記録を持つ得意種目のやり投が61m72に終わった。投てきの際、得意にしている向かい風にも恵まれて「(向かい風が)きた、狙うぞ、みたいになっちゃって。落ち着いて、試合運びができなかった」と悔やんだ。最終種目の1500mは4分38秒97で、8058点で6連覇となった。

【次ページ】 もう1人日本人がいることも右代にとって追い風。

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