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吉田沙保里と伊調馨がまたも日本一。
絶対王者が苦しむ、対照的な逆境。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2015/06/29 10:40

吉田沙保里と伊調馨がまたも日本一。絶対王者が苦しむ、対照的な逆境。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

日本女子レスリング界のツートップと言って過言ではない吉田沙保里と伊調馨(写真左端は48kg級で今大会4連覇を達成した世界女王の登坂絵莉)。彼女達を脅かす後進にも出てきてほしいものだが……。

伊調を避けて58kg級は3人のみのエントリー。

 一方の伊調の58kg級は、思いがけない事態となった。エントリー選手が伊調を含めて3人しかいなかったのだ。伊調との対戦を避けるために階級を1つ上げるあるいは1つ下げる、つまり階級変更をする選手が続出したのが理由だ。中には、伊調に次ぐ存在と見られていた選手もいた。

 普段はトーナメントで行なわれる今大会だが、唯一3人総当たりのリーグ戦形式という異例の措置がとられた。

 伊調は1試合目を1分33秒、2試合目を56秒でともにテクニカルフォール。その戦いぶりは、他の選手たちが58kg級、つまり伊調との対戦を回避する心境も分かるほどだった。

敗戦のたびに強くなってきた吉田は再び甦るか。

 内容の面ではそれぞれに違いのある大会だったが、今後を考えると、むしろ吉田にとってはよかったかもしれない。

 吉田は過去も敗戦など苦しい試合を体験して、それを糧にしてきた経緯がある。2008年の北京五輪の年には、1月のワールドカップでマルシー・バンデュセン(アメリカ)に判定で敗れて連勝記録がストップ。2012年のロンドン五輪の年も、5月のワールドカップでワレリア・ジョロボワ(ロシア)に1-2で敗北。そこで課題が見えたことが後々につながった。そういう意味では、苦戦を強いられたことが今後に向けて、気を引き締める材料となる。

 一方の伊調は、競い合う相手がいない中でも、年数をかけて技のバリエーションを増やすなど自ら進化しているところはさすがと言うほかない。だからこそ吉田と並び五輪3連覇を果たせたのだし、2007年のアジア選手権で怪我により不戦敗となったのを除けば、2003年に敗れたのを最後に今日まで無敗を誇るまでの強さを身につけられた。

 それでも、試合後こうコメントしている。

「若手にはどんどん当たってきてほしいです」

 国内で厳しい戦いをまったく経験することができないのは物足りないだろう。孤高と言えるほど突出した強さを持つからこその悩みではある。

 今大会の優勝により、吉田と伊調は、9月の世界選手権代表に選ばれた。リオデジャネイロ五輪の出場枠のかかる最初の大会である。

 対照的な姿を見せた2人は、オリンピックの4連覇を目指し、それぞれに進んでいくことになる。

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