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FIFA騒動の行方を左右する3大要素。
会長選、開催地、未公開の報告書。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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posted2015/06/25 10:40

FIFA騒動の行方を左右する3大要素。会長選、開催地、未公開の報告書。<Number Web> photograph by AFLO

ヨルダンのアリ王子はワールドカップの出場国を36に増やすことなどを公約にして会長選に出馬し、ブラッターに敗れた。次期会長最右翼とも言われるが果たして……。

マネーゲームには、マネーゲームで対抗するしかない。

 Jリーグがおかれた現状もしかり。

 近年、日本のクラブ関係者の間では、欧州のクラブチームによる強引な選手獲得が問題になってきた。最近では中国マネーの脅威も説かれ始めている。中東、ロシア、欧州、そして中国のマネーが日本サッカーに及ぼす影響は一層、深刻になっていくだろう。

 このような状況に対抗するために必要なのは、金権体質をモラリスティックに批判することではない。目の前に分厚い札束を積まれ、手塩にかけて育てた選手が連れ去られようとしている時に、サッカー界で動く金額の異常さを指摘しても何の役にも立たないからだ。結局のところ、マネーゲームにはマネーゲームで対抗していくしかない。だからこそ日本のサッカー界では、新たなビジネスモデルの確立が叫ばれているのである。

「絶対権力は絶対的に腐敗する」

「権力は腐敗する。絶対権力は絶対的に腐敗する」

 これは19世紀に活躍したイギリスの政治思想家、ジョン・アクトン卿の有名な格言である。FIFAのスキャンダルを言い表すのに、かくもしっくりくるフレーズはないように思う。

 だが現実を見誤ってはいけない。たしかに一連の調査や告発により、FIFAの金権体質はある程度改善されるかもしれない。W杯の招致活動を巡る買収、スポンサー契約や放映権契約を巡る贈収賄、チケットの横流しなどにも一定の歯止めがかかる可能性はあるだろう。膨大な収入や積立金を、適切に再配分すべきだという声も急速に高まってきている。

 しかしアクトン卿に倣って言うなら、「腐敗した絶対権力が浄化されても、サッカー界には絶対的に金が集まり続けるし、権力闘争も絶対的に続いていく」からだ。

 いぶかる人はIOCのケースを見ればいい。ソルトレーク五輪の招致スキャンダルが契機となって腐敗は一掃され、大会誘致のプロセスは透明化した。では放映権料は下がっただろうか。答えは明らかに否である。

 金権体質に絶対におもねらないようにしながらも、レアルポリティークやマネーゲームの世界で勝ち残っていく。この難しい課題を両立させるには、理想と現実の板挟みになって必死にもがいていくしかない。

 ワイドショー的なわかりやすい正解は、サッカー界には存在しない。直面する問題はいずれも複雑で途方もないし、すべての決断には強い苦悩と痛み、そして矛盾が伴う。この絶対的なリアリティを認識することから始めなければ、日本が進むべき道など見えてこないし、世界のサッカー界も何ら変わっていかないのである。

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ミシェル・プラティニ

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