NumberEYESBACK NUMBER

弱くては勝てない――東大と開成高校の違い。
~秀才軍団だからこその長所とは~ 

text by

藤島大

藤島大Dai Fujishima

PROFILE

photograph byAFLO

posted2015/06/12 10:30

弱くては勝てない――東大と開成高校の違い。~秀才軍団だからこその長所とは~<Number Web> photograph by AFLO

平成22年秋に早稲田大・斎藤佑樹を下して以来、4年半ぶりの白星。

 東京大学野球部、ついに勝利。5月23日、対法政、延長10回、6-4。一報に接するや「弱くても勝てます」の8文字が頭に浮かんだ。後述するが「そうではないぞ」と説くために。

 あらためて「弱くても勝てます」。開成高校の「野球部のセオリー」を紹介、広く愛された一冊(新潮社)のタイトルだ。

 著者(高橋秀実)の気取らずに端正な名文、対象との距離が心地よい。超の字もつく進学校の部員の言葉が生きている。「外野は涼しい」。これ、野球史上、屈指の名言ではないか。「油断はそこに付け入ることもできますが、なめられていいことはひとつもありません」。こちらは勝負の実相に指の先が触れている。

 開成高校野球部は、週1回のグラウンド練習という極度に限られた条件の範囲で強豪校に一矢を放とうとする。思考と方法からのアプローチだ。ただし「弱者=競技経験と身体能力と体格で劣る側」にとってのもうひとつの可能性、鍛練の強度は省かれている。

「勉強が得意な連中は反復に耐えられるんだよ」

 昔、大東大こと大東文化大学ラグビー部を率いて3度の学生日本一、鏡保幸監督(当時)がこうつぶやくのを聞いた。

「俺、小東大の監督なら猛練習するよ。勉強が得意な連中は反復に耐えられるんだよ」

 小東大とは東大の意味である。そして、当時、戦力難に苦しんでいた慶應で孤軍奮闘していた選手の名を挙げて「あいつは大丈夫、社会で勝ちますよ。反復に耐えたんだから」と言った。伸びやかな指導で名をはせる人の意外な視点だった。

 以下、ひとつの仮説。

「弱者」が焦点を絞らない長時間練習=× 焦点を絞り切った効率的練習=○ 焦点を絞り切った厳しい反復鍛練=◎ 

 東大野球部が法政を打ち破るのは人類の平和や文明の未来とはさして関係がないが、やはりニュースだ。開成高校がトーナメントでまれに強豪に善戦する(それとて簡単ではない)のと異なり、こちらの勝手をよく知る才能集団とぶつかり細い勝機を探る。これは難しい。慶應が附属校を強化、立教にスポーツ推薦が復活して「時に手の届きそうな相手」との距離も開いた。思考と方法の身体化なしに1勝はつかめない。

【次ページ】 弱者の定義に含まれない「考える力と集中力」。

1 2 NEXT
1/2ページ
関連キーワード
東京大学

ページトップ