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バファローズ伊藤光の勝利への飢え。
~「持ってない」正妻からの脱皮~ 

text by

石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

PROFILE

photograph byNIKKAN SPORTS

posted2015/05/09 10:30

バファローズ伊藤光の勝利への飢え。~「持ってない」正妻からの脱皮~<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

 さすがに意地の悪い質問だったかもしれない。それでも彼はまっすぐにこちらを見て、こう答えてくれた。

「そんなもんだと思いました。結局、自分はそういうものしか持ってないのかなと……そう思いたくなるくらい、これまでにいい思いをしてませんからね」

 バファローズのキャッチャー、伊藤光に、「去年、あと少しのところでまたも勝ち切れなかった現実をどう受け止めているのか」と訊いたとき、彼は「持ってない」と言った。伊藤は明徳義塾高校のとき、2年続けて夏の高知県大会決勝で敗れ、2年の夏も3年の夏も、あと一歩のところで甲子園へ出場できなかった。去年も土壇場の直接対決でホークスにサヨナラ負けを喫し、リーグ優勝まであと一歩のところで悔し涙に暮れた。伊藤はその瞬間のことをこう振り返る。

「打たれたことに悔いはありますけど、選んだボールに悔いはないということです。今でも他のボールを投げさせればよかったという気持ちはありません」

救援陣の故障、開幕ダッシュ失敗……苦境で大切な姿勢。

 まさかの躍進に加え、オフの大型補強もあって一躍、優勝候補に挙げられた今シーズン。ところがバファローズは開幕から4連敗、1つ勝って、また4連敗。また1つ勝って6連敗(1分けを挟む)と開幕ダッシュに失敗し、泥沼にはまり込んでしまった。最大の誤算は、鉄壁を誇ったリリーフ陣だ。6回から8回を比嘉幹貴、岸田護、馬原孝浩、佐藤達也が抑え、最後は平野佳寿が締める。去年は7回終了時にリードしていれば67勝2敗と、逆転負けはほぼあり得なかった。

 しかしながら今年、比嘉、岸田が開幕前に、4月に入ってから平野、佐藤が相次いで故障で登録を抹消され、バファローズのブルペンは壊滅状態に陥った。しかも伊藤が先発のマスクをかぶった試合はなかなか勝てず、開幕からの連敗は10に達した。それでも伊藤は必死で前を向いた。彼がこう言っていたことがある。

「あきらめない姿勢を見せることが自分に求められている仕事だと思います。いい思いをしたい、勝ちたいという気持ちが逆にエネルギーになっているんです」

 去年、伊藤は先発マスクをかぶった121試合で19もの貯金を作った。正捕手の存在が揺らげば、投手陣の再建はない。バファローズ“逆襲のカギ”は、勝ちに飢えたキャッチャーが握っている。

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