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「安く買って高く売る」を極限まで。
セビージャの“ミダス王”モンチ。 

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工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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photograph byMarca Media/AFLO

posted2015/04/23 10:30

「安く買って高く売る」を極限まで。セビージャの“ミダス王”モンチ。<Number Web> photograph by Marca Media/AFLO

ウナイ・エメリ監督(右)と名物SD“モンチ”の信頼関係がセビージャ独自の補強計画を可能にしている。

株式会社ではあるが、スポーツクラブとして勝利を。

 とはいえ、いくら金を儲けたところでチームが勝てなければ意味がない。その点はモンチも承知している。

「経済の専門家から見れば、我々は模範的なケースなのだろう。でもはっきりしておきたいのは、我々が評価されているのはチームが安定して結果を出しているからだということだ。我々は株式会社ではあるが、スポーツクラブであることを忘れてはいけない」

 その言葉通り、セビージャは毎年のように主力選手を引き抜かれているにもかかわらず、それを補う無名の実力者を随時補強していくことで戦力を維持し、この10年間で2度のUEFAカップ、2度のコパデルレイなど国内外で計7タイトルを獲得する成功を収めてきた。

エメリ監督と、具体名を挙げずに欲しい選手の話をする。

 その手であらゆるものを黄金に変えていったミダス王のように、財政と成績の両面でクラブ史上最高の“黄金期”を築いてきたモンチは、補強の秘訣について監督との協力関係を挙げている。

「自分は監督が扱う道具の1つだと思っている。良き理解者であるウナイ・エメリとは、どのような選手が必要なのか話し合っている。具体名は挙げずにね。我々スカウティング班の仕事はそこからだ。鍵は監督との協力関係なんだよ」

 現場を仕切る監督が求める人材の質を理解した上で、名前や実績にこだわらず需要に見合った選手を見つけ出す。それは当たり前のようでありながら、監督の首がころころと入れ替わる現代のフットボール界においては、継続するのが難しいことである。

 実際セビージャも、シーズン半ばの監督交代が続いた'10-'13年の間は、結果が出ないために現場の体制を持続できず、それが補強の失策にもつながる悪循環に陥っていた。

 エメリが就任した一昨季の後半以降、数年ぶりに1シーズンを超える長期政権が実現したため、それが現場と強化部の連携体制の安定、ひいては効果的な選手補強をもたらす好循環を取り戻すことにつながっている。

 とはいえ、その過程が順風満帆だったわけではない。攻撃の要だったネグレドとナバスを揃って放出した一方、十数人の新戦力を迎えてゼロからのチーム作りを強いられた昨季は、前半戦を通して安定した結果が出せず、一時は監督解任まであと一歩のところまで至っていたのだ。

【次ページ】 今季もまた、主力が多額の移籍金を残して去った。

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