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非礼か、高度な精神制御か。No.1が見せた“ラケット破壊”。
~王者ジョコビッチの乱心と重圧~ 

text by

秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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photograph byHiroshi Sato

posted2015/04/06 10:00

非礼か、高度な精神制御か。No.1が見せた“ラケット破壊”。~王者ジョコビッチの乱心と重圧~<Number Web> photograph by Hiroshi Sato

 ノバク・ジョコビッチがロジャー・フェデラーを破って優勝した米国・インディアンウェルズの男子シングルス決勝は面白い試合だった。もっとも、この「面白い」は「興味深い」の意味だ。

 第1セットを奪ったジョコビッチは、第2セットも4-2としながら追いつかれ、タイブレークではダブルフォールト3本の大乱調でセットを落とす。最終セット序盤もブレークの応酬。2-0からブレークバックを許したジョコビッチは、怒りにまかせてラケットを地面にたたきつけ、へし折る失態を見せた。彼が重圧に苦しんでいるのは明らかだった。ところがこれでフラストレーションを吐き出し、ふっきれたのか本来の姿を取り戻し、最後は6-2とフェデラーを圧倒した。

世界ランク1位でもこんなに重圧に苦しむのだ。

 ラケットを折った場面について「これでおしまい、忘れよう、と自分に言い聞かせた。集中を取り戻さなければいけないと考えた」とジョコビッチ。「これがスポーツ。重圧のかかる場面ではこういうこともある」とも話している。手段はともかく、気持ちの切り替えに成功したのは間違いない。

 筆者の耳に入ってきたのは、勝者を非難する声だった。ラケットを折るのは規則違反であり、重大なコートマナー違反。元選手やテニス用具を扱う専門家は「ナンバーワンとして品格に欠ける」「子供たちに見せられない」などと手厳しかった。「失態」と書いたのは、筆者も「みっともないな」と感じたからだ。

 ただ、もちろん許されない行為ではあるのだが、子供たちに見せられないとは思わない。小学生でもこの行為の善悪は判断できるだろうし、これを反面教師とするはずだ。また、そうするように周囲が導くのが正しい。逆に、学べることの多い試合とは言えないか。世界ランク1位でもこんなに重圧に苦しむのか。フェデラーは流れをつかみかけていたが、ちょっとしたきっかけでこれほど急に勢いを失ってしまうのか――とテニスの奥深さ、不思議さを知る教材になる。

 白状すると、憤るより、「へぇーっ」と感心しながらこの“ご乱心”を眺めていた。周囲がどんな思いでラケットを整備し、彼に手渡しているか考えたかと問われたら、黙って頭をたれるしかないが、テニスというスポーツの一断面が鮮やかに映し出されたシーンではあっただろう。

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