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ぐつぐつ煮込まれ、溶けゆく真摯な毒。
~『フットボーラーなで斬り論』~ 

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幅允孝

幅允孝Yoshitaka Haba

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photograph byWataru Sato

posted2015/03/23 10:05

ぐつぐつ煮込まれ、溶けゆく真摯な毒。~『フットボーラーなで斬り論』~<Number Web> photograph by Wataru Sato

『王者への挑戦状 最強フットボーラーなで斬り論』ヘスス・スアレス+小宮良之著 東邦出版 1500円+税

 辛口で人気のウルグアイ生まれのサッカージャーナリスト、ヘスス・スアレスの最新刊『王者への挑戦状』には、共著者として小宮良之の名前が並ぶ。

 世界的なクラックや名監督を独自の視点で一刀両断する彼らのサッカー批評。そこに含まれる毒性は、読む者を虜にする魅力がある。過去にも、イニエスタはメッシ以上に完全無欠な選手だとか、カペッロは語る価値がないなどと、歯に衣着せぬ物言いで突き進んできたスアレス。その過激な論調を解毒することなく、うまく翻訳してまとめあげるのが小宮の役割というわけだ。

温かな毒のスアレス&小宮節はさらにキレを増した。

 今作でもベンゼマやトゥランなどスペインで活躍する選手の批評が中心。前作のC・ロナウドやメッシ評に比べ対象が小粒になった? いやいや、有名性とサッカー選手としての魅力が比例しないことを一番よく知っている男がスアレスだ。 

 S・ラモスに流れるアンダルシアの血が示す情熱や刹那について。V・バルデスが到達した達観の境地について。それらを温かな毒で包んでゆくスアレス&小宮節は健在どころかキレが増している。そして、小宮は告白するのだ。「スアレスの毒が自分の体内に混ざっている」と。

 思えば小宮単著の最新刊『おれは最後に笑う』でも、スアレス的な「愛のある毒」を感じる作品が多々あった。それは、ただの辛口批評という意味ではなく、書く対象に肉薄しようとする覚悟。自身の視点を信じて曲げない頑なさ。書くことへの真摯さが希薄なご時世だからこそ、まっとうな毒は書き手にも読み手にも伝播する。そんな時代なのだ。

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