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トミー・ジョン手術で肘が強くなる!?
米国で囁かれる“都市伝説”の正体。 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGetty Images

posted2015/03/23 10:30

トミー・ジョン手術で肘が強くなる!?米国で囁かれる“都市伝説”の正体。<Number Web> photograph by Getty Images

ダルビッシュ投手は、トミー・ジョン手術前の3月8日、利き手である右手にグラブをはめ、左投げで練習に参加していた。

米国球界に囁かれるトミー・ジョン手術の“都市伝説”。

 実は米国の野球界では、トミー・ジョン手術に関して一種の“都市伝説”が存在する。

 アマチュア野球のコーチや選手の親の間で「手術を受ければヒジが強くなる」とか「手術を受ければ球速が上がる」などの間違った認識が広がり、必要もないのにトミー・ジョン手術を受けさせるケースも出ているらしい。

 実際、前述の年齢別の解析データでも12~19歳のトミー・ジョン手術の症例が81例(12~17歳が20例、18~19歳が61例)となっている。決して少なくない数字だろう。

 日本のメディアやファンの間でも勘違いされたまま報じられている部分はあるようだが、この都市伝説は明らかな事実誤認だ。

 確かにじん帯を移植することで、損傷したじん帯が復活するのは間違いない。だが、それはただ単に負傷前の状態に戻っただけで、以前より“強くなる”ことは決してない。

 球速に関しても同じだ。

 ヒジに問題を抱えて投げている状態ではなくなるので、多少球速に変化が出ることはあるだろうが、トミー・ジョン手術だけで確実に球速が上がるわけではない。

リハビリ中の肉体改造こそが“都市伝説”の内実。

 別の知り合いのトレーナーから聞いたところでは、確かにトミー・ジョン手術を受けた投手が、手術前より球速が上がっているということを証明するリサーチは存在しないということだった。

 それでも一般的にはトミー・ジョン手術を受けたメジャーリーグ選手の復帰後ををみると、何となく“都市伝説”が正しいように思えてしまうかもしれない。

 確かに日本のメディアが例に挙げているように、レッドソックスの田澤純一投手は手術前より球速が上がっているといわれている。だからといって、手術だけに注目してしまうのは些か早計だ。実は、手術から復帰するまでに行なわれているリハビリのもたらす影響も、無視してはいけないだろう。

 長年パイレーツでストレングス&コンディショニングコーチを務める百瀬喜与志氏に確認したところ、チームによってリハビリ内容に違いがあるとした上で、大まかなメニューを教えてくれた。

 まずリハビリは13~14カ月を目処に組まれ、そこから選手の状態を確認しながら調整していくそうだ。

 そしてパイレーツの場合は、手術後最初の4カ月はヒジの状態を戻すリハビリを行なうのと並行して、有酸素運動と身体のバランスを整えるトレーニング(長年一定の動きを繰り返すことでどんな選手もバランスが乱れてしまうそうだ)を徹底的に行なうという。

 その後、キャッチボールなどを再開するのに合わせて瞬発系のトレーニングを加え、徐々に身体を鍛え直していく。さらにあくまでヒジの状態を最優先にしながらも、最後の4カ月でスプリングトレーニング的な練習メニューに移行し、復帰時期を見極める、というものだった。

 つまり、リハビリ期間は単にヒジを元に戻すだけでなく、手術前以上の肉体改造も同時に行なっているのだ。

 これが“都市伝説”の真実であろう。

【次ページ】 ダルビッシュのストイックさに期待。

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