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岩隈、上原、黒田、そしてカーショー。
メジャーの主流は球速から制球力に? 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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posted2015/02/01 10:50

岩隈、上原、黒田、そしてカーショー。メジャーの主流は球速から制球力に?<Number Web> photograph by AFLO

レッドソックスでクローザーを務める上原浩治のストレートは、140km前後。しかし四球率はメジャー史上最高レベルの低さで、奪三振も多い。制球力こそが彼の最大の武器なのだ。

若い頃から速い球を投げることのリスクとは?

 昨季、日米で投手の肘の故障が改めて問題視された。靭帯を損傷し、トミー・ジョン手術を受ける選手が後を絶たず、日米の野球界にとって喫緊の課題となっている。

 日本では、日本人投手がメジャーに行ってから故障することが多いことから、メジャーリーグのマウンドの堅さや過酷な登板日程などに原因があるとする報道も多かった。そのアメリカでは、靭帯損傷を引き起こす可能性がある要素が徹底的に追及され、その中に「球速」が含まれているのだ。

 日本のMLB専門誌『Slugger』でも特集が組まれたことがあり、決定的な要因ではないとしつつ、アメリカでトミー・ジョン手術を受けた選手の傾向として、若いころから球速を出す選手だったという指摘もある。

 まだ身体が出来ていない年齢で速い球のみを追求することが、危険を及ぼす可能性があるという議論は、過去に甲子園で「最速投手」と呼ばれた投手たちのその後をみれば、無視できるものではないだろう。

日本に球速革命が起こったのは、1998年ごろ。

 先述の山本昌投手は、周知のように剛球投手ではない。また、MLBで史上7人目となる14年連続200イニング登板を達成したブルージェイズのマーク・バーリー投手も、力みのない投球フォームでコントロールを武器に打者を抑える投手である。

 日本に球速革命が起こったのは、横浜高時代の松坂大輔投手が甲子園に登場した1998年ごろだろうか。近年では、160kmの壁を破るような投手も出るようになり、野球ファンやスポーツメディアの球速に対する期待も日増しに高くなっているような気がする。

 野球界の技術指導が進歩した結果という見方もできるが、今後はさらに日本の育成自体が球速を出すための方法に偏っていくのではないか……という不安もある。アメリカのトレンドやトミー・ジョン手術についての研究を考慮すれば、若い投手、特に高校生投手などを球速のみで評価することには大きなリスクが潜むことが分かる。メディアに携わる者は特に注意しなければならないだろう。

 球速評価主義への違和感は、今さらに“怖さ”となって増している。

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