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野球の魅力を存分に伝える超一流4人の語り。
~『野球術』に記されたMLBの極意~ 

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馬立勝

馬立勝Masaru Madate

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posted2015/01/20 10:10

野球の魅力を存分に伝える超一流4人の語り。~『野球術』に記されたMLBの極意~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『野球術』ジョージ・F・ウィル著 芝山幹郎訳 文藝春秋 現在絶版

 野球がスローで退屈と思う人、それはその人が退屈な心の持ち主にすぎないからだ」。本書はこの名言の意味する“考えるスポーツ・野球”の魅力を全2冊でたっぷりと伝える。邦題『野球術』は原書のサブ・タイトルだが、名監督と投球、打撃、守備の3部門を代表する名選手がそれぞれの「術」を語って野球の深さ、凄さ、面白さを浮き彫りにした。

 顔ぶれがすごい。204勝投手のハーシュハイザーを除きすべて殿堂入り。この超一流4人の微に入り細をうがった語りを堪能する。ラルーサ監督のモットーは、「監督はゲームを隅から隅までコントロールしなければならない」。両リーグでワールドシリーズを制した名将は、自軍の打者が死球を受けた時の報復の仕方まで考えている。

「ブルドッグ」があだ名のハーシュハイザー投手が、投げようとする変化球に適した高さの縫い目のボールが来るまで審判員にボール交換を要求する繊細さにニヤリとし、首位打者8回のグウィンの、本塁打を生んだ納得できないスイングの解説に完璧主義の面目を知り、強打者のイメージのリプケン遊撃手が「守備をきちんとやれた時の満足感は」、満塁でヒットした時にもまさるという意外さに感じ入ってしまう。

逸話、伝説、習慣、記録、歴史……読む球趣は増す。

 ただし、野球の技術書ではない。4人のインタビューを核にしてそれに関連する逸話、伝説、習慣、記録、歴史が織り込まれるから、読む球趣は増すばかりだ。アメリカでの書評に「ファン周知の球史ネタを入れすぎる」というのがあったけれど、これがうれしい。一塁への盗塁、2死満塁での敬遠などの意外なプレーから球数の問題まで、ページごとに野球談議の種がぎっしり。文庫版では消えたが、単行本には本文上の欄外に「試合時間が長くなった理由」などと短評言を記す眉批(びひ)まで付いている。訳者、編集者が本書に惚れ込んで加えたのだろう。

 著者はピュリッツァー賞受賞のコラムニスト。専門は政治、社会、経済などの硬派筋だが、野球狂として有名だ。数百時間のインタビューと3年ものリサーチが一体になったファンならではのマニアックな労作。『野球、そのすべて』の副題を付けたくなる。

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