減量から解放され、手にした圧倒的なパワー。

　敗れたナルバエスは試合後、井上のパンチ力のすさまじさを盛んに口にした。リング上でナルバエス陣営が「グローブに何か細工しているのではないか」と井上のグローブをチェックしたというエピソードは象徴的である。減量から解放されただけで、これほどのパワーが宿るのか。井上本人は次のように語っている。

「（クラスを上げて）いつも通りの自分が出せたかなと思う。ライトフライ級のときは、試合前に足が動くかどうか心配だったけど、今回はそれがなかった。でもまだスーパーフライ級の体はできていないので、これからフィジカルを鍛えていきたい」

“モンスター”井上のブレイクスルーは、新たな時代の幕開けを告げたように思えた。2015年に突入した時点で、日本のジムに所属する世界チャンピオンは9人。これからはたとえ世界王者であっても、生半可な相手に、中身の薄い試合をしようものなら、見向きもされなくなる。以前から分かっていたこととはいえ、今回の年末興行を機にその傾向はより強まっていくのではないだろうか。

増えるビッグマッチは、諸刃の剣。

　井上の活躍に他のボクサーたちも大いに刺激を受けたはずだ。大みそかに9度目の防衛を成功させたWBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志（ワタナベ）はWBC王者の三浦隆司（帝拳）との統一戦に突き進むかもしれないし、あるいは海外に打って出る可能性もある。

　他のチャンピオンたちも我こそはとリスクの高いビッグマッチを望むだろう。無敗の強者ローマン・ゴンサレス（ニカラグア）への挑戦に手を挙げる者、はたまたリゴンドーに挑む新たなチャレンジャーも生まれるかもしれない。

　刺激的なマッチメークが増えるとすれば、ボクシングファンにとってありがたい話であり、ひいてはファンの拡大にもつながることだろう。ただし、そのようなマッチメークはお金も手間もかかるし、今まで以上に高いリスクを伴う。ボクシング人気が高まりつつある一方で、大きな果実はだれの手にも渡るというわけではない。果実にありつけるのか、はたまた淘汰されてしまうのか……。ボクサーも、プロモーターも、裸の力量が問われる厳しい時代が始まろうとしている。