NumberEYESBACK NUMBER

大鵬と並ぶ記録を打ち立てた白鵬は剛柔あわせ持つ横綱。
~幕内優勝32回は吸収力にあり~ 

text by

藤島大

藤島大Dai Fujishima

PROFILE

photograph byKYODO

posted2014/12/22 10:10

大鵬と並ぶ記録を打ち立てた白鵬は剛柔あわせ持つ横綱。~幕内優勝32回は吸収力にあり~<Number Web> photograph by KYODO

九州場所は高安に敗れて14勝1敗。来年の1月場所で5連覇に挑む。

 草原ははるか遠くへと続く。少なくともそう映る。土俵には限りがある。土を詰めた俵で囲われた競技の場は大男には窮屈なほどだ。

 白鵬、先の九州場所において32度目の優勝。かの大鵬と並ぶ史上最多記録を達成した。

 雄大なモンゴルを故国とする横綱は、島国の小さな土俵、その有限なる空間を無限に使う。だから負けない。キーワードは「吸収」である。

 身長が192cm、体重は157kgの堂々たる体躯、あらゆる譲歩を拒むような鋭い視線、不機嫌と紙一重の張り詰めたオーラは無慈悲のイメージを発散する。ただし、取り口は腕力と闘争心に頼ろうとしない。むしろ柔らかく吸い込むのだ。そのことで狭い土俵に自在を得る。

 右足を少し前に出す構えの立ち合いが象徴だ。上体の右側を内へ向けてぶつかる。激しく厳しく当たり、ほんの一瞬、柔らかく引き寄せる。殺気と余力の完璧な両立。いや余力ゆえ殺気も際立つのか。そこに「点」のもろさはない。「面」の安定を保ち、それでいて「点」の鋭利も手放さない。「自然体」と評したくなる伸縮性がある。

双葉山への敬意を隠さぬ態度と、「後の先」。

 北の湖理事長は、大横綱の大鵬との比較をこう語っている。

「押しても力が吸い込まれるような、柔らかい体が似ている」(東京新聞)

 大鵬の取り口は静かだった。攻めか守りかと問われれば後者の相撲だろう。これに対して、このところの白鵬は攻める印象も強い。力任せではないが下位力士のスピード優先のぶちかましに付き合って、迷わずカチーンとはね返したりもする。九州場所の照ノ富士戦では、勝負をつけてからダメ押しの不行跡で好角家より不評を買った。

 柔らかいのに静かではない。やんちゃな素性も見え隠れする。ここにおいて白鵬の「吸収」は意味を広げる。土俵の中の体と技にはとどまらず、その心が、必要な養分を貪欲なまでに吸い込むのだ。

 伝説の横綱、双葉山への敬意を隠さぬ態度も一例だ。この偉人の旨とした「後の先」にも思考はおよぶ。ゴのセン。先んじられるから手を焦らず結果として先んじてしまう。やはり双葉山にまつわる「木鶏」も常に意識にある。「いまだ木鶏たりえず」。本当に強き者は木彫りの鶏のごとく動じない。格闘家の到達点を時に公言しながら自身の内面と外的イメージを補強していく。

【次ページ】 来日当初、62kgだった少年が「巨人」となれた理由。

<< BACK 1 2 NEXT >>
1/2ページ
関連キーワード
白鵬

ページトップ