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毒霧はなぜ美しいのか?
~“東洋の神秘”プロレスラーの自伝~ 

text by

幅允孝

幅允孝Yoshitaka Haba

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photograph byWataru Sato

posted2014/12/09 10:00

毒霧はなぜ美しいのか?~“東洋の神秘”プロレスラーの自伝~<Number Web> photograph by Wataru Sato

『“東洋の神秘”ザ・グレート・カブキ自伝』ザ・グレート・カブキ著 辰巳出版 1350円+税

 初めて緑色の毒霧が宙に散るのを見たとき、小学生だった僕はこう思った。「あれは何だ! やってみたいっ」。

 ザ・グレート・カブキの自伝は、激動の半生を丹念に追う力作。日プロ、全日本、SWS、WAR、新日本、そしてアメリカと旅するプロレスラーは日々さすらう。所属団体の消滅や合併などプロレス界の大きなうねりに巻き込まれながら、いつも飄々と新しい道を見つけるザ・グレート・カブキ。最初に渡米した1970年には、子供向けのアニメで英語の勉強をし、米国の運転免許も取得。以前に浅草で買った法被を羽織って入場し、人気ヒールレスラーは誕生した。

 日本との往復を繰り返しながら、ダラスに腰を据えた彼は、1980年にいよいよ皆が知るザ・グレート・カブキに変身する。プロモーターに歌舞伎役者の写真を見せられ、「こういう格好ができるか?」と聞かれたのだ。メークは完全にオリジナル。ドーランはすぐ落ちるので女性用の口紅を使う。衣装も自分で縫い、刺繍だってお手の物。そして、シャワー中に偶然発見したあの毒霧のパフォーマンスが彼の人気を決定的にした。

華やかな毒霧を放つカブキ、その素顔は冷静沈着。

 本書では毒霧の秘密の一端が明らかになるのだが、何よりも驚いたのはそのこだわり。どんなタイミングで、どんな色の毒を噴けば魅力的に見えるのか、照明の角度も含めて彼は検証する。

 プロレスの未来は、基本を大切にした原点回帰にあるという男は、パフォーマンスの派手さとは対極的にいつも冷静沈着。騒いでばかりいては、折角の旅路が台無しだと、常に前向きに歩むのだ。

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