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海外ツアーへの登竜門? 裏街道、全日本選手権の意義。
~伏兵・江原弘泰がテニス日本一に~ 

text by

秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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photograph byHiromasa Mano

posted2014/12/07 10:30

海外ツアーへの登竜門? 裏街道、全日本選手権の意義。~伏兵・江原弘泰がテニス日本一に~<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

 全日本選手権の位置づけは独特だ。テニス人生最大の目標とする選手がいる一方で、世界に出ていくためのステップと考える選手もいる。全日本の成績は世界ランクに反映されないが、日本一の勲章を海外進出の片道切符と見なすのだ。近年では伊藤竜馬、奈良くるみらが優勝して全日本を卒業、海外ツアーに専念している。主催者の日本テニス協会は昨年からシングルスの優勝賞金を400万円にアップ。天皇杯、秩父宮妃記念楯を争う名誉と賞金の実利を選手にアピールし、実力者の全日本離れを食い止めようとしているというのが現状だ。

 11月9日に決勝が行われた男子シングルスを制したのは江原弘泰。世界ランク591位、ノーシードの伏兵だった。準決勝でデビスカップ代表の内山靖崇(同262位)に競り勝つと、決勝では今年、ウィンブルドンにも出場した第1シードの杉田祐一(同124位)を破った。173cmの小兵はパワーに欠ける分、長いラリーに持ち込んであの手この手でチャンスを作った。フットワークを生かし、隅から隅までコートを走り回った。

ワウリンカなどの練習相手として磨いた江原の生命線。

「みんながフェデラーみたいにプレーしたいと思うが、彼は特別で、まねはできない。フェレールのように走ってチャンスをつくり、攻撃的なプレーをまぜるテニスを目指している」

 優勝会見でのコメントにも、独特のひと味が効いていた。自分の形が見えてきたのは海外での経験が大きい。'09年の全日本ジュニア18歳以下を制し、四大大会ジュニアでも活躍、しかしプロ転向後、伸び悩んだ江原は、昨年1月からスイスのアカデミーを練習拠点にしている。ワウリンカなどトッププレーヤーに指名され、ヒッティングパートナーを務める機会もあるという。巨漢との練習をこなしているからこそ、小兵の生き方、武器を見出すことができたに違いない。

 全日本で上位ランカーを連破し、「世界でもっと上を目指せる自信」もついた。優勝賞金について聞かれると「遠征や活動費に使いたい」。海外での活動は経費がかさむ。400万円は財政難の23歳には大きな助けとなるだろう。この1年、世界を目指し、貪欲にやるべきことをしてきた選手への、勝利の女神の粋な計らいか。賞金がこうして役立てられるなら、全日本も存在価値が増す。

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