自分の理想のフォームをずっと追い求めていた。

「フォームはどのようにして作り上げたのか？」。そのようにやんわりと尋ねると、伊藤は迷うことなく「自分で」と言った。

「アマチュア時代からずっと自分で考えて投げてきました。本当なら指導者の方たちの意見を多く取り入れたほうが、もっと早く自分にハマったフォームになれたのかもしれないけど、僕は自分で考えたかったというか」

　伊藤の言葉をもう少し咀嚼すれば、つまるところ、彼自身が言っていたように「自分の理想を追い求めていた」ことになる。

　スライダーに生命線を託した。フォームも模索し、自分にとって最も投げやすい形にこだわった。それは間違いない。

　だが、伊藤はやっぱりストレートを完全に捨てきれていなかったのではないか。

「苦しんだのは……スピードじゃないですか」

　モヤモヤとした気持ち。マウンドでは楽しめることなく、充足感を味わえなかったプロでの3年間。その理由を彼はこう答えた。

「なかなか、スピードが出ないという部分はあったと思います」

　質問を変えてもう一度、尋ねてみた。「プロで一番苦しんだ部分は何か？」と。

　伊藤は、一瞬言葉を詰まらせ、言った。

「苦しんだのは……スピードじゃないですか」

　野球が続けられる環境があればしたい――。

　少し前まではNPBでの現役続行にこだわりを見せていたが、今では海外を視野に入れているのだと、伊藤は今後のことを話してくれた。

「とりあえずは、ゆっくり考えたいですね。僕、トレーニングは好きなんで、ひとりで筋トレとかしながらゆっくりと」

　21歳。ポテンシャルだってある。

　あの剛速球をもう一度。

　伊藤拓郎の野球人生は、まだまだ続くのだ。