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ドルトムント、湘南、アギーレ――。
「下から目線の攻撃サッカー」とは。 

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北條聡

北條聡Satoshi Hojo

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posted2014/09/30 16:30

ドルトムント、湘南、アギーレ――。「下から目線の攻撃サッカー」とは。<Number Web> photograph by AFLO

アーセナルのラムジーを取り囲むドルトムントの選手たち。高い位置から多くの選手が連動したプレッシングは、時間の経過とともに相手の冷静さを奪い取っていく。

アーセナルとドルトムントの対照性。

 先日開幕した欧州チャンピオンズリーグでアーセナルを破った一戦は、その好例かもしれない。最終的にポゼッションの率で上回ったのはアーセナルだが、より攻撃的に戦っていたのはドルトムントの方だった。

 アーセナルも攻撃的なチームだが、強豪を相手にするとやけに守備的に映ることがある。持たざる側に回ったときにパッシブになりやすいからだ。プレッシングが甘く、ポゼッションで劣れば「奪えない→攻められない」という負の流れから抜け出せなくなる。

・ボールとゴールを「奪う」ドルトムント
・ボールとゴールを「守る」アーセナル

 勝者は、よりアグレッシブなドルトムントの方だった。シュート数は実にアーセナルの6倍に当たる24本を記録している。必ずしも「ポゼッション=攻撃的」「カウンター=守備的」ではない。そのことが、この一戦からも分かるのではないか。

堅守速攻というよりは、「強奪速攻」。

 そうした例はJリーグにもある。10月を待たずに早々とJ1への昇格を決めてしまった湘南ベルマーレだ。曹貴裁監督の率いる一団もまた、ドルトムントと同じ「奪う」ことに力点を置いた攻撃サッカーの担い手である。

 戦術の柱は、前から奪うハイプレスと前から攻めるショートカウンター。それを堅守速攻と呼んではアグレッシブなイメージが伝わりにくい。例えるならば「強奪速攻」か。

 とにかく、奪う力が凄まじい。相手は反撃に転じても、瞬く間にボールを奪われてしまう。すると、どうなるか――。湘南が一方的に攻めまくることになるわけだ。

 最悪の場合、相手はボールロストの連続で自陣に釘付けにされてしまう。カウンター志向の湘南が完全に主導権を握り、敵陣で攻め続けるのである。

 ボールを奪い、主導権を奪い、ゴールを奪う。

 あるものすべてを奪いに行く湘南の「強奪主義」は、ポゼッションプレーとは対極のアングルから辿りついた超攻撃サッカーのコンセプトと言っていい。ボールがあることを前提にしたポゼッションに対し、ボールがないことを前提にしたプレッシングは「下から目線」の発想とも言える。富(ボール)の偏在を推し進める富裕層(持てる者)に対し、労働者(持たざる者)が反旗を翻すレジスタンスのような。だからというわけではないけれど、彼らには重労働(ハードワーク)がよく似合う。

【次ページ】 日本の「攻撃サッカー」は上から目線ではなかったか。

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