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アルトゥーベとイチロー。
~“165cmの大打者”が200本安打~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byGetty Images

posted2014/09/19 10:30

アルトゥーベとイチロー。~“165cmの大打者”が200本安打~<Number Web> photograph by Getty Images

9月10日のシアトル・マリナーズ戦で200本安打を達成した、ヒューストン・アストロズのホゼ・アルトゥーベ。現役のメジャーリーガーの中では、最も身長が低い選手である。

現代野球において低身長は大きなハンデだが……。

 では、現代野球には、身長170cm以下の「偉大な小柄選手」は存在しないのか。

 むずかしい。'50年代デビューのアルビー・ピアソン(外野手)、'60~'70年代に活躍したフレディ・ポーテク(遊撃手)、'80年代から'90年代にかけて17年もプレーしたラファエル・ベリヤール(遊撃手、二塁手)、2000年代前半から中盤にかけて活躍したデヴィッド・エクスタイン(遊撃手、二塁手)らの名が浮上するが、記録的には物足りない。

 それにひきかえ、アルトゥーベの打撃と走塁は注目に値する。最大の特徴は「打ちたがり」の傾向が強いことで、1打席平均で相手投手に3~4球しか投げさせていない。当人もその傾向を否定せず、「大リーグの投手が攻めの投球をしてくるかぎり、こちらも初球から打ちにいく」と新聞のインタヴュー記事で述べていた。

アルトゥーベはウィリー・ウィルソンの小型版になれるか。

 もっとも、投手にしてみれば、ずいぶん投げにくい打者だ。背が低くてストライクゾーンが狭ければ、投手はストライクを取りにいこうと焦りがちになる。焦れば、どうしてもボールを置きにいったり、コースが甘くなったりする。アルトゥーベは、その失投を見逃さない。短い腕をスパッと振り出し、最短距離でボールをとらえる。

 しかも彼の場合は、眼と手の連動が素晴らしい。手が遠まわりしない分、肘を畳んだりバットをこねまわしたりすることがなく、確実にボールをヒットする。映像を見ていても、そのコンタクト能力は相当に高い。打数が多い割に三振数が少ないのも、この能力の証明といってよいだろう。

 そういえば、アルトゥーベの三振数(49)は、長打の合計数(二塁打=41本、三塁打=2本、本塁打=7本)よりも少ない。今季の大リーグを見ると、これに匹敵するのはヴィクター・マルティネスぐらいだ。V・マルティネスは、二塁打=29本、本塁打=30本、三振数=39というめざましい数字を残している。しかも3割3分5厘の打率は、アルトゥーベにひけを取らない。ふたりの首位打者争いは、たぶんシーズン終盤までもつれこむだろう。ペナントの行方とは別に、興味をそそられる戦いだ。

 それにしても、去年までの数年間、あんなに弱かったアストロズから、アルトゥーベのような「奇才」が現れたのは面白い。イチローの域(10年連続200本安打)に到達するのはむずかしいだろうが、'80年代に活躍したウィリー・ウィルソン('80年に、230安打、79盗塁、3割2分6厘の数字を残した)の小型版にはなれるかもしれない。運動能力抜群のこの選手からは、眼を離さないでおこう。

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