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「機動破壊」が壊した常識と精神。
健大高崎が甲子園に残した“衝撃”。 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byKyodo News

posted2014/08/22 18:25

「機動破壊」が壊した常識と精神。健大高崎が甲子園に残した“衝撃”。<Number Web> photograph by Kyodo News

二盗のみならず、三盗をも多用する健大高崎の「機動破壊」は他を圧する存在感を放っていた。この衝撃は、高校野球界に新たな戦術の潮流を生むだろうか。

「走るだけでは機動力。相手を嫌がらせるのが『破壊』」

 その成果はさっそく表れる。2011年夏、チームは甲子園初出場を遂げる。そこで自信を深めた葛原は、機動力重視の戦い方を今以上にチームに浸透させようと、初めて「機動破壊」という言葉を掲げた。この言葉は、今も葛原のよき相談相手である父の美峰が20年来暖めていた言葉でもあった。

「いつかこの言葉を実践するチームを見てみたい、という思いがあったようです」

 この夏、1回戦で対戦した岩国のエース柳川健大が「こんだけけん制しても走ってくんのかって、嫌でしょうがなかった」と語ったように、健大高崎の機動力は相手の精神をこれでもかというほど「破壊」した。

 葛原が説明する。

「走るだけでは、ただの機動力なんです。うちの場合、走らなくても相手を嫌がらせることができる。それが機動破壊の真の意味なんです」

 3回戦の山形中央戦は象徴的だった。3回裏、健大高崎は3四死球をからめ、一度も走らずに打者一巡の猛攻で一気に4点を挙げた。

「山形中央は、ほとんどけん制をしてこなかった。早く走ってくれという感じだった。でも、うちは二盗はやらずにバントで二塁に送って、それから三盗をしかけるつもりだった。ランナーが二塁にいったときの方が、ピッチャーのモーションが大きかったんです。そうしたら、投げても投げても走ってこないので、相手が勝手にリズムを崩してくれた」

森友哉に盗塁を阻止された2012年選抜の“呪縛”。

 準々決勝の相手は、葛原が「日本最高峰のチーム」と認める大阪桐蔭だった。

「一人目が成功するかどうかが鍵になりますね」

 試合前、葛原はそう語った。苦い記憶があった。じつは健大高崎は2012年選抜大会の準決勝でも大阪桐蔭と対戦している。そのときは、最初の盗塁を森友哉(西武)に阻止され、以降は盗塁を試みることすらできずに1-3で敗れた。

 葛原が思い出す。

「森君はショートバウンドの投球だったのに、ここしかないって場所に矢のようなボールを投げてアウトにしてしまった。あれでうちの選手たちが完全にびびってしまったんです。だから今日はまずはひとつ盗塁を成功させて、2年前の呪縛を解かなければならない」

【次ページ】 「流れができると、誰が走ってもセーフになる」

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