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<達人が教える山旅> 世界初の女性エベレスト登頂者・田部井淳子 「初心者こそロープウェイで山に行ってみてほしい」 

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柳橋閑

柳橋閑Kan Yanagibashi

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posted2014/08/26 10:00

<達人が教える山旅> 世界初の女性エベレスト登頂者・田部井淳子 「初心者こそロープウェイで山に行ってみてほしい」<Number Web> photograph by AFLO
初心者こそ、ロープウェイを有効活用して高い山に登るべき――。
女性初のエベレスト初登頂者が教える、ユニークな楽しみ方。

好評発売中の「Number Do 達人が教える 山旅に行こう。」より、
田部井淳子さんがお勧めする高山の登り方を一部公開します。
田部井淳子 JUNKO TABEI
1939年9月22日、福島県生まれ。'62年に社会人の山岳会に入会し本格的に登山を始める。'69年「女子だけで海外遠征を」を合言葉に女子登攀クラブを設立。'75年女性として世界で初めてエベレスト登頂に成功。'92年女性で世界初の7大陸最高峰登頂者に。著書に『それでもわたしは山に登る』(文藝春秋)、『山の単語帳』(世界文化社)など。

 女性として世界で初めてエベレストに登頂した田部井淳子さんは、世界が認める女性登山家の第一人者だ。その田部井さんが初心者にすすめているのが、ロープウェイやバスを使って山へ登ること。「初心者は低山から」という常識を覆す発想の真意はどこにあるのだろう?

 若い頃から岩登りや高所登山、海外遠征を繰り返し、第一線の登山家として活躍してきた田部井さんにとって、山とは当然、麓から歩いて登るもの。ロープウェイを使って標高を稼ぐなど、邪道以外の何ものでもないと思っていた。ところが、年老いた母といっしょに山の紅葉を見るバスツアーに出かけたことで、その信念は揺らぎだした。

「若い頃の私は、歩いて登るからこそ山には価値があるんだと思っていました。故郷・福島の吾妻小富士にしても、昔は一日かけて麓から登るのが当たり前だったから、磐梯吾妻スカイラインという道路ができたときも反発する気持ちがあったんです。でも、80歳近くになった母親が紅葉を見たいというので、バスに乗って連れて行ったら、『いいねえ、すごいねえ』って、すごく感動してくれたんですよ。もう窓にへばりつくようにして全山紅葉した山なみを見てました」

「最初は高い山に登ってはいけない」という固定観念。

 そこで、次に田部井さんは母親を那須へ連れ出した。ロープウェイで標高1417mまで上ってゴヨウツツジの群生地を見せると、「山の上ではこんな景色が見られるんだねえ」とまたまた感動してくれた。

「それを見て、もっとロープウェイやバスを利用して、いろんな人に日本の山の美しさを見てもらうことも大事なんじゃないかと思うようになったんですよ」

 その思いは、NHK文化センターで山登り教室を始めてからいっそう強まることになった。

「初心者というと、必ず『低い山から始めなさい』と言われますよね。たしかに低山は安全度が高いし、低山ならではの魅力というものもあります。NHK文化センターの生徒さんたちを連れて行くと、『自然の中を歩くっていいね』と喜んでくれます。ところが、ロープウェイを使って木曽駒ヶ岳などに行くと、もう歓声の上がり方がまるで違うんですよ。『ワーッすごい!』『私たちでもこんなところに来ていいんだ!』とほんとうに感激してくれます。それを間近に見ているうちに、教えるほうも、教わるほうも、『最初から高い山に行ってはいけない』という固定観念に縛られすぎていることに気づいたんです」

【次ページ】 普段は見れない高山植物、涼しさ……非日常の世界が。

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