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米国の大御所が突きつけた「三行半」。
クリンスマン体制の功罪を問う。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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posted2014/07/28 10:30

米国の大御所が突きつけた「三行半」。クリンスマン体制の功罪を問う。<Number Web> photograph by Getty Images

延長前半に2点を奪われるまで、ベルギーの猛攻に必死に抗ったティム・ハワード。ファーガソンに招かれて以来、プレミアでプレーするGKの意地を見せた。

アメリカにとってベスト16は成功と言えるのか。

 アメリカ代表に関して、指摘できる問題はさらにある。

 クリンスマンのチームは、決勝トーナメントの1回戦で敗れてブラジルを後にした。これは成功なのだろうか? アメリカ代表は、なんらかの成果を手にしたと言えるのだろうか?

 16強対決で敗れるというのは、ボブ・ブラッドリー率いるチームが4年前の南ア大会で残した結果とまったく同じである。ついでに言うなら、ブルース・アリーナが指揮したチームは、2002年の日韓大会でベスト8まで進んでいる。

 ならばクリンスマンの下で、アメリカ代表は一体どこが進歩したというのか。

 もし彼がアメリカのサッカーを進化させた――つまり、高いスキルに裏打ちされた攻撃的なサッカーを展開したというなら、たしかに大きなプラスだろう。

 だが僕はわざわざ時間を割いて、このテーマを論じたくはない。クリンスマン指揮下のアメリカ代表は、サッカーの質においてもプレースタイルにおいても、明らかにまったく進化しなかった。僕はそう見ているからだ。

クリンスマンはアメリカを路頭に迷わせた。

 現にクリンスマンは、アメリカのサッカーを路頭に迷わせただけだった。

 アメリカのサッカー界は、多様な民族から構成される人材の宝庫である。

 だがクリンスマンは、アメリカ出身の才能ある若手には目もくれず、ドイツで生まれ育ったアメリカ系の選手を帰化させている。帰化した選手の中には、アメリカとほとんど関係のない選手さえいた。同時にクリンスマンは、コーチングスタッフにもドイツ人を好んで起用している。

「我々は才能のある選手を捜し出すために、アメリカ国内のありとあらゆる町を回りながら、最大現の努力をしている」

 クリンスマンはこう述べたけれど、彼が代表に招集したのはドイツやアイスランド、ノルウェー出身の選手たちだ。ドイツやアイスランド、ノルウェーといった国々は、“アメリカ国内”ではないはずだ。

 クリンスマンが、アメリカのサッカーをかくも歪ませてしまったことを正当化できるのは、若手の育成に成功している場合のみになる。この分野に関しては、それなりに結果が出始めているが、目を見張るほどの成果を残しているわけではない。

【次ページ】 ファイティングスピリット論にはもううんざり。

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