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W杯前の闘莉王の言葉が頭をよぎる。
本当の「日本のサッカー」とは何か? 

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西川結城

西川結城Yuki Nishikawa

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posted2014/07/11 11:55

W杯前の闘莉王の言葉が頭をよぎる。本当の「日本のサッカー」とは何か?<Number Web> photograph by Getty Images

ザッケローニに率いられた4年間の冒険は、W杯のGL敗退で終わりを告げた。次期監督の人選でもパスサッカーの継続が条件としてあがっているが、「日本のサッカー」とは何なのかについて今こそ議論が必要だ。

日本が目指すのはスペインやメキシコなのか?

「日本人にはスペイン人やメキシコ人のようなサッカーが適している」

 長きにわたって、そんなことがいつの間にかサッカー界の通説のように語られている。ただし、その考えは果たして本当に正しいのだろうか。

 確かに彼らは、体格的には日本人と共通している部分が多い。アングロサクソン系やアフリカ系の選手に比べ体のサイズで劣ることの多い彼らラテン系の国々は、細かくパスをつないで機動力を活かしながら攻め勝っていくスタイルを志向するようになった。

 ただ身体的特徴はもちろん大事だが、ここで忘れてはならないのはマインド、国民性だ。

 彼らラテン民族は、楽天的な人生観を持つ人が多いと言われている。質実剛健なドイツ人や、生真面目な日本人とは、メンタリティが確実に異なる。

 また、決して体格差だけを考慮してリズミカルなパスサッカーを志向しているのではない。いつ、どんなときでも人生を楽しむことを前提に生きている彼らは、プレーにも娯楽性を求め、さらに勝利を求めていくことが必然なのではないだろうか。

パスサッカーを捨てた、オランダの柔軟性。

 加えて言えば、今大会のオランダが見せている柔軟性も印象的だった。伝統ともいえる攻撃的なパスサッカーを一時的に捨て、勝負のために機能的なカウンターサッカーを展開するシーンが多く見られた。準決勝でアルゼンチンにPK戦の末に敗れ去ったが、そのイメージと異なる戦いぶりは、鮮烈な存在感を放っていた。

 かつて取材でオランダを訪れた際の、地元の人達の慎ましい生活ぶりが記憶に残っている。あるオランダ人の友人は、自分たちをこう評していた。

「私たちは毎日、何事もなく生活できていることが幸せと感じられる。刺激的ではないのかもしれないけど、柔軟で穏やかな国民性だと思う」

 毎日昼食でパンにチーズとハムを挟んだだけのサンドイッチを食べ続けても、彼らは飽きることもないという。華美に毎日を彩るよりも、機能的に生きていきたい。そんな国民性を考えると、今回オランダ代表がより効率的に戦うために、柔軟に自分たちの姿を変えていったことにも納得できる。同じパスサッカーと言えども、娯楽性をより追求するスペイン人には、この変化は受け入れられなかったかもしれない。

【次ページ】 あれだけ「攻めていく」と言っていたにもかかわらず……。

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