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全仏初戦敗退の錦織がケガで陥った精神的迷い。
~全力プレーと恐怖感の狭間で~ 

text by

秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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photograph byHiromasa Mano

posted2014/06/09 10:00

全仏初戦敗退の錦織がケガで陥った精神的迷い。~全力プレーと恐怖感の狭間で~<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

 錦織圭がトップ10選手として初めて迎えた四大大会、全仏は初戦敗退に終わった。前哨戦のバルセロナで優勝、マドリードの決勝ではラファエル・ナダルに勝ちかけた錦織は大会の注目選手だった。初戦の相手は世界59位。この番狂わせを海外メディアも大きく報じた。

 ただ、予想もできなかった結果とは言えない。マドリードの決勝で途中棄権を強いられた股関節と左ふくらはぎの故障は完治せず、「四大大会でなければ欠場していたかもしれない」ほどの状態だった。サーブ練習を再開したのもわずか2日前。試合形式の練習を一度もこなせないまま初戦を迎えた。専属トレーナーが手を尽くし、コンディションは80%まで回復したという。しかし、1回戦で錦織が発揮できた力は5割、あるいは4割か。米国のテレビ、ESPNで解説を務めたカリスマコーチ、ダレン・ケーヒルの見立ては「50%」。アジアの至宝はこの日、十人並みのプレーヤーでしかなかった。

 試合後、錦織は「最初は動くのに不安があった」と打ち明けた。悪化を恐れる心理が80%なりの全力プレーを難しくしたのだ。錦織の母親、恵理さんも「恐怖感が大きすぎて、試合に入り込めていない」と感じていたという。

大差がついた状況でも、握り拳を作り自らを鼓舞した。

 大会前、錦織はマイケル・チャンコーチに体験談を聞かされていた。ある大会で、棄権を考えるほどの痛みを抱えながら初戦を突破、試合をこなすうちに痛みは引き、決勝に勝ち進んだというのだ。コーチは、錦織に「無理するな」と言いつつ、上位選手にふさわしい故障への向き合い方を探れと投げかけたのだろう。

 これまで何度も故障に泣かされてきた錦織。コーチのようにケガを克服すれば、過去の自分を超えられる。だが、どこまで自分をプッシュすべきなのか。その葛藤が彼を苦しめていたに違いない。

「結構、気持ちとの勝負だった。いろんな思いがあって試合をしていた」と試合後の錦織。彼が戦っていたのは、相手よりも、その「思い」だろう。

 錦織は、このメンタルの戦いを制することはできなかった。終盤、体の状態を考えれば挽回不可能と思える大差がついた。それでも錦織は握り拳を作って自らを鼓舞した。自分を超えたいという意志だけは折れていなかったから、負け戦を最後まで全うしようとしたのだ。

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