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ファンハールはマンUをどう変える?
ウイング、確率論、そして香川真司。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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photograph byGetty Images

posted2014/05/20 11:10

ファンハールはマンUをどう変える?ウイング、確率論、そして香川真司。<Number Web> photograph by Getty Images

現在はオランダ代表を率い、ブラジルW杯への準備を進めているファンハール。今大会後の退任が確定したわけだが、母国にどんな置き土産を残すのだろうか。

復活の鍵を握るのは「ウイングサッカー」。

 しかし、ファンハールの監督就任を歓迎する最大の根拠は別のところにある。それは戦術的な理由によるものだ。キーワードはずばり、「ウイングサッカー」である。

 もともとファーガソンは、ウイングサッカーの信者として知られていた。4-4-2で両サイドに、スピードやドリブル突破能力のある選手(ギグス、カンチェルスキス)、正確なクロスを提供できる選手(ベッカム)を配置する手法は、彼の代名詞でもあった。4-2-3-1などで似たような役割を担ったのが、クリスティアーノ・ロナウド、ヤング、バレンシアといった選手である。

 ただし、このアプローチは諸刃の剣ともなってきた。サイドにボールを叩き、ゴール前にボールを折り返して得点を狙っていく方法は、たしかにダイレクトでスピード感に富む。だがともすれば一本調子に陥りがちで、必ずしも効率はよくなかった。事実、監督在任期間の晩年、ファーガソンはウイングサッカーの限界を暴かれるようになっていく。

「確率論的サッカー」と「非確率論的サッカー」。

 ファーガソン流ウイングサッカーの功罪。

 この問題を考える時に一つの視点を提供してくれるのが、マンチェスター・シティとの関係である。過去3シーズン、両チームが辿った明暗は、ウイングを巡る実験の結果としてとても象徴的だからだ。

 2011-'12シーズン、シティは得点93、失点29という数字を残し、44シーズンぶりとなる国内リーグ制覇を遂げた。精力的な選手補強や、終盤戦におけるユナイテッドの失速もさりながら、戦術的な突破口となったのは、監督のマンチーニが「非確率論的サッカー」を目指したことである。

 サンディ・ミラーの記者であるサイモン・マロックは、ファーガソンとマンチーニが実践したサッカーの特徴を、次のように端的に言い表していた。

「ファーガソンは『確率論的なサッカー』を好む。ウイングがサイドを突破してペナルティエリアの中に折り返せば、10回中1回か2回はいい形でシュートにまで持ち込めるチャンスになるのではないかという考え方だ。

 だがマンチーニは違う。彼は慎重な考え方をするイタリア人であるが故に、確率論というギャンブルを好まない。もちろんマンCの選手もクロスは入れるが、むしろサイドに開いたときでもなるべくパスをつなぎ、最終的にマイナスの折り返しやフリーになる人間を作り、相手の守備を崩してシュートに持ち込む形を目指してきた」

【次ページ】 マンチーニが陥った「自家中毒」の罠。

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