ブックソムリエ ~必読!オールタイムベスト~BACK NUMBER

ボールがあれば蹴る。
心を豊かにする写真集。
~『マグナムサッカー』が捉えた風景~ 

text by

馬立勝

馬立勝Masaru Madate

PROFILE

photograph bySports Graphic Number

posted2014/05/05 10:30

ボールがあれば蹴る。心を豊かにする写真集。~『マグナムサッカー』が捉えた風景~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『マグナムサッカー』サイモン・クーパー序文 ファイドン 2180円+税

 サッカーの試合は記事にするのが難しかった。ボールを追って多数のプレーヤーが有機的に絡み合い、ノンストップ・アクションで進行するためだ。そこでゴール場面などはイラストの助けを借りることになる。サッカーは“映像のスポーツ”なのだ。

 ならば、サッカーの写真集を……といっても、本書はワールドカップに代表される大試合の写真集ではない。大試合で撮られたものでもピッチ上の選手ではなく、観客席や路上やスポーツバーのサポーターばかり。

 138枚のほとんどが草サッカーだ。

 中東の砂漠で、ヨーロッパの街路、公園で、アジアの草原で日本の河川敷で、アフリカのぬかるみで、戦車の隣で、大地震後の瓦礫の中でも人々は嬉々としてボールを追い蹴っている。男も女も老人も若者も子供たちも。

 どの写真も楽しい。写真下のキャプションはキャメラマンの名前、撮影場所、撮影年だけ。背景説明のないのが、読者(?)の想像力を刺激して画面の中に物語を誕生させる。

紛争や災害取材の傍らで撮ったサッカーのある風景。

 たとえばブラジルでの1枚、男女素っ裸で入り乱れボールを蹴り合っている。原始の人たちがサッカーに興じているようだ。こうもり傘をさした7人の少年がボールを追う雨のポルトガルの1枚も素敵だ。つい最近、FIFA(国際サッカー連盟)は試合中のヘッドスカーフ(ヒジャーブ)着用を認めた。1998年撮影のヒジャーブを被ったイランの女性の元気なキックをみると規則改正は遅かった。ボールがあれば蹴る、それが人間……。

 写真はマグナム・フォト所有の4000枚もの中から選ばれたという。ロバート・キャパ、アンリ・カルティエ=ブレッソンらが設立した写真家集団マグナム・フォトの会員が紛争や災害などの取材の傍らで撮ったサッカーのある風景。キャメラマンたちもサッカーファンだった。

 何度もページを開くとバラバラになりそうな造本だが、心配無用。気にいった一枚を額に入れ机に飾って置ける。

 近藤篤『ボールピープル』(文藝春秋)、宇都宮徹壱『フットボール百景』(東邦出版)の先輩にあたる一冊、心を豊かにしてくれる写真集だ。

関連コラム

ページトップ