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自らの言葉で語り出した、
最速王者・井上尚弥。
~怪物ボクサー、精神面での飛躍~ 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

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photograph byBOXING BEAT

posted2014/04/30 10:00

自らの言葉で語り出した、最速王者・井上尚弥。~怪物ボクサー、精神面での飛躍~<Number Web> photograph by BOXING BEAT

父・真吾さんの肩に乗って歓喜の井上。3階級制覇を狙う井岡一翔との対決にも前向きだ。

“怪物くん”井上尚弥がプロ6戦目で世界チャンピオンになり、日本人世界王者の最短出世記録を更新した。4月6日のWBC世界L・フライ級タイトル戦。メキシコの王者アドリアン・エルナンデスを6回の猛攻でTKOに撃退しての戴冠だった。

 日本人挑戦者が戦う前から有利とみられることは滅多にないが、今回はまさにそれだった。井上はプロ入りに際して、大橋秀行会長が「チャンピオンになれるかではない。ならない方がおかしい」と強調した逸材。試合内容、結果を含めほぼ予想通りだったが、意外なことがあった。勝利の瞬間、師でもある父・真吾さんがリング内に飛び込む前に、新チャンピオンはフロアーに倒れ込み、うつ伏せのまましばらく勝利の感激に浸ったのだ。23年前、辰吉丈一郎が初めて世界王座に就いた直後のパフォーマンスに重なった。

 近年アマ、プロを問わず若い世代でレベルアップが進み、高校生が大人の大会に出場して全日本王者になることもある。その理由ははっきりしている。キッズボクシングが盛んになったからだ。少年時からジムに通う子供は昔もいたが、今は小・中学生の大会があり、実戦で鍛えられるのだから強くもなるはず。そのキッズ世代の頂点にいたのが井上尚弥だった。

“お父さん次第”から脱皮し、自己表現法を身につけた。

 尚弥と弟・拓真の井上兄弟は、熱心な指導者真吾さんの育てた傑作である。同時にあまりに優等生すぎて、その言葉を聞く方は物足りないのも事実だった。例えば、いつ王者に挑戦したいかと問うても「お父さんが納得してくれたら」と、何ごとも“お父さん”次第だった。

 それがチャンピオンになった途端、堰を切ったかのように自らの言葉で語り出したのを聞いて唖然とした。父に深く感謝しつつも、この年代の若者らしい自己表現法も身につけていたと知り、少しうれしくなった。「世界チャンピオンになって当然」という期待は、怪物くんでも大きなプレッシャーだったのだろう。

 具志堅用高が9戦目で世界王座獲得最短記録を樹立して以降、8戦目、7戦目ときて6戦目。世界タイトルが増えたこともあり、この記録も遠からず破られるに違いない。井上にはスピード出世の王者としてではなく、今後の試合内容、つまり強敵相手に名勝負を重ね、偉大な王者としてリング史に名を残してほしい。

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